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【父と暮せば】★★☆ (宮沢りえで、おまけで)一見の価値あり 登場人物三人。実質、娘(宮沢りえ)と父(原田芳雄)の舞台劇風の原爆映画。 原爆で父や友を失い、自分だけが生き残った罪悪感に苛まれる娘を宮沢りえが熱演。 井上ひさしの同名戯曲を、黒木和雄監督が完全映画化。原爆で父や友を失い、自分だけが生き残った罪悪感に苛まれる娘を宮沢りえが熱演。わが子の幸せを思い死にきれず、愛娘の前に現れる心優しき父親を原田芳雄が演じる。原田芳雄も若いころのあのギラギラした感じが消え,枯れて自在な味わいがいい。後世に語り継がれるべき悲劇を真摯に伝える入魂の一本。 3年前広島に落とされた原爆で家族や友を失い、一人暮らしをする美津江(宮沢りえ)の前に、突然亡くなったはずの父(原田芳雄)が現れる。彼女は父に勤務先の図書館で会った青年(浅野忠信)の話をする。 原爆映画ということで、気がすすまなかった。大変だったことは分かる。しかし、申し訳ないが、これにとどまることなく、これを乗り越えて、新しい時代を築くかと。 例によってこの映画のポイントを3つ挙げたい。その1つ目は、やはり“宮沢りえ”。りえワールドの魅力はスゴイ。上手いとか下手とかそういうのでなく、不思議な力で彼女の世界にひきずりこまれていく。登場人物が少なくて台詞の多い、舞台っぽい作品で説得力のある演技を要求される作品。そういう映画にはりえちゃんは、向いている。今回は,宮沢りえと原田芳雄の演技が中心。野田秀樹の舞台「透明人間の蒸気(ゆげ)」での演技も素晴らしかったとのこと。りえちゃんは、『たそがれ清兵衛』で一皮むけた。それなりに安定感がある。かつて10代で明るく元気が売りの彼女も、落ち着いて地味な役に定着。この『父と暮らせば』も素晴らしい。生き残った自分を責める娘。他にやれる女優が思い浮かばない。メリハリのある台詞まわし、華のある雰囲気。被爆後の貧しい生活ゆえ、それがそこはかとなく醸し出される。繊細な立ち振る舞いの中に凛とした存在感を見せつけて、画面に重みと奥行きを与える。制作が噂されるハリウッド映画『さゆり』で娼婦を扱う大作があるという。役所弘司、渡辺謙、桃井かおりが候補にのぼる。主演女優はなんと中国の大女優コン・リーを日本人として使うとのこと。りえにして欲しい。 監督は、被爆で溶けた瓦や地蔵の顔の大写し、原爆投下のCGによるカラー再現など限定された演劇空間を映画的に膨らませるなどの工夫をしているものの、所詮CG。原爆の生々しさを伝ええない。後段に監督の作品歴を掲載する。この映画経歴で監督黒木和雄を研究して見よう。この制作系譜から原爆、浪人、スリといわば人生の暗いところに焦点をあててきた監督。申し訳ないが映画視点は好きでない。 その3つ目は、“井上ひさし”。井上ひさし戯曲ということで、台詞回しはもろ演劇調だ。井上ひさしは、作品の執筆にあたり、常に膨大な資料を集め、選び、読み込むという十分な過程を経るため「遅筆堂主人」の異名を持つ一方、「笑いの魔術師」「現代の戯作者」とも呼ばれ、小説、戯曲、エッセイ、日本語問題…と幅広い活躍をしている。なかでもその核となっているのが演劇であり、こまつ座の旗揚げと同時に座付作者を務め、数々の名作を上演してきた。 ともかく、この井上ひさし戯曲の長い台詞をよくりえちゃんが喋った。 《黒木和男》 『竜馬暗殺』もこの監督とよるとこうなる。幕末という動乱期を背景に、坂本竜馬が暗殺されるまでの最後の2日間を描く。慶応3年11月13日。海援隊の常宿“酢屋”から“近江屋”へ身を移す坂本竜馬。大いなる野望に燃える竜馬であったが、大政奉還後の権力闘争の狭間で、佐幕派はもちろん、勤皇派からも煙たがられる存在となっていた。身の危険は誰よりも感じていながら、近江屋での竜馬は意外なほど落ち着き払っていた。しかし、2日後に暗殺される竜馬には、この時すでに刺客の手がすぐそこまで近づいていた……。 さらに『浪人街』。江戸末期の下町を舞台に、そこの裏界隈を生きるアナーキーな浪人たちの人間模様を描いたチャンバラ時代劇。江戸の下町。食い詰め浪人が集うところ。この街で夜鷹が次々と斬られていく事件が発生する。犯人は遊び半分に凶行におよぶ旗本一党だった。権力を傘に悪行を繰り返す一党に、反骨の浪人たちが立ち上がる……。相手は120人。対する浪人は片手にも満たない。はたして、浪人たちに勝ち目はあるのか? 『美しい夏キリシマ』。1945年、夏の霧島地方。15歳の少年、日高康夫は働いていた工場で空襲に見舞われ、親友が被爆死するのを目の当たりにする。以来、一人生き残ったことに罪悪感を抱いてしまい、それが原因で体を壊し、彼は学校に行けなくなっていた。そんな康夫を厳格な祖父・重徳は非国民と罵倒する。すっかり心を閉ざしてしまう康夫だったが、日高家で奉公人として働くなつにだけは、歳も近いせいか気を許していた。一方、日高家のもう一人の女中はるには、ある日縁談の話が持ち込まれる。しかし、相手が片足を失った帰還兵と知って複雑な心境になるのだった。 《井上ひさし》 本名 井上 廈。1934年(昭和9年)11月16日川西町(旧小松町中小松)生まれ。作家・劇作家。前日本劇作家協会会長。03年4月より日本ペンクラブ会長。川西町名誉町民(99年10月)。仙台文学館館長、吉野作造記念館名誉館長。 (岩波ホールで公開中) 【CODE46】★★★☆ 十分、一見の価値あり 近未来ノワールと古典的ラブロマンスのコラボレーション(融合)が。 主演の二人が、とにかくぴったり。音楽の危険な雰囲気がでていて 素晴らしい 前作『イン・ディス・ワールド』でベルリン映画祭の3賞に輝いた、英国の俊英マイケル・ウィンターボトム監督が初のSF映画に挑戦。遺伝子の徹底管理を行う社会によって引き裂かれる、運命の恋人達の姿を描く。『ギター弾きの恋』『イン・アメリカ』で03年アカデミー女優賞ノミネートの若手実力派女優、サマンサ・モートンと、『ミスティック・リバー』で03年アカデミー賞助演男優賞に輝いたベテラン、ティム・ロビンスが共演。人工的な世界で許されぬ恋に苦悩する人間臭い男女を情感豊かに演じる。 ※
フィルム・ノワール (Film noir) とは、虚無的・悲観的・退廃的な指向性を持つ犯罪映画の総称である。ジャン・ギャバンのヤクザ映画等フランス映画で使われるが、最初はハンフリー・ボガードの『マルタの鷹』が最初だとのこと。 例によってこの映画のポイントを3つ挙げたい。その1つ目は、“禁断の愛”。近未来ではクローン人間が溢れて来た。“CODE 46”は、そんな氾濫するクローン人間が,関係を持つことを禁じる上海の法律だ。関係を持とうとすると“心”とは別に“体”が拒絶する。妊娠していることが判ると逮捕され強制的に“人工中絶”させられる。同じ遺伝子を持つ者2人はそれでも愛し合おうする。マリアはベッドに両手両足を紐で縛り既婚のウィリアムと関係を持つシーンは痛ましい。『冬のソナタ』のチュンサンことリジン(ぺ・ヨンジュ)がユジン(チェ・ジュ)と兄弟と知りつつ結婚式を二人で上げようとする話しと重なる。(後で二人は血はつながってないことが判るが)禁断の愛は切ない。昔から、究極の愛として近親相関はフランス映画などで扱われてきた。倫理観に映画は挑戦して、“愛”の形を描いてきた。今回は、管理化された近未来のアジアで出会った男女が、宿命的な恋に落ちていくさまをせつない情感豊かにつづる。近未来でありながら、セットに頼らず上海やドバイで撮影された映像は、郷愁すら呼び起こす。また、テーマはクローンをはじめ、倫理問題にも踏み込んでいる。が、「いつの時代も、白黒つけられないグレーの部分と折り合いをつけながら人間は生活している。何にでも善悪をつけるのはかえって違和感を感じるな。何かを考えさせる映画は悪くないと思う。今回、ノワール・タッチでクラシカルに語られる。マリアは、中絶されると共に関係をした“記憶”も消される。後半、二人は再び合い、愛し合う。やがて“法律“CODE 46””を逃れてある街(ドバイで撮影とか)に行く。車を有り金を叩いて、砂漠をドライブに。が、スリップ事故に会う。シアトルに連れて帰られたウィリアムはマリアとの“記憶”を消されて妻(ジャンヌ・パリバール)と5歳の男の子と幸せな日々を。妻だけが“記憶”の消されたことを知っている。一方、マリアは事故に遭った町に残されウィリアムとの“記憶”を残されたまま物売りに落ちた貧しい暮しの中で、いまだ彼との再会を夢見ている。理不尽な悲劇である。環境破壊が進む近未来の舞台となる上海が無機質な世界と表現している。 その2つ目は、“マイケル・ウィンターボトム”。『24アワー・パーティ・ピープル』『イン・ディス・ワールド』」と、コンスタントに作品を発表している。 その悲しげな顔は今回のテーマにぴったりだ。2人にはどこか遺伝子でつながっていると思わせる雰囲気がある。同時に、すぐに恋に落ちると思わせない意外性も持ち合わせている。彼ら自身も気づかない、大きな力によって恋に落ちた、というような感じがするから不思議。キャスティングの妙か、彼らの演技力か?(テアトル銀座他で9月11日より公開) 《マイケル・ウィンターボトム作品》(私のボトム研究課題として) GO NOW(95)バタフライ・キス(95)日蔭のふたり(96)ウェルカム・トゥ・サラエボ(97)アイ ウォント ユー(96)いつまでも二人で(99)ひかりのまち(99)めぐり逢う大地(00)24アワー・パーティ・ピープル(02)イン・ディス・ワールド(02) 【インファイナル・アフェア 無間序曲】★★★☆ お薦めしたい ラストの音楽もいい。サスペンスの醍醐味と流麗な映像美にあふれる。 運命に操られる群像劇を通して、中国返還前90年代の香港の時代のうねりを伝える。 犯罪映画「香港ノワール」復活を思わせる質の高い娯楽作 ヒット作「インファナル・アフェア」の過去にさかのぼり、登場人物の因縁を描く犯罪劇。若き潜入者2人と彼らのボスを中心に、緊迫の人間模様が展開する。 マフィアと警察の対立が激化する'91年、マフィアの子分ラウ(アンドリュー・ラウ)が警察に送り込まれる。一方、ウォン警部(アンソニー・ウォン)は若者ヤン(エディソン・チャン)を潜入捜査官に任命。香港の中国返還が近づくなか、彼らは激動の運命をたどることに。東銀座・三原橋「シネパトス」はピンク映画専門館であった。それが最近、改装して訳有り映画を上映する。立ち見がでるほど。最終時間は若者中心に長蛇の列ができるほど。 例によってこの映画のポイントを3つ挙げたい。その1つ目は、“前作つくり”。中国への返還後、沈滞が続いた香港映画だったが、昨年公開された「インファナル・アフェア」の久々のヒット。それを受けての第2作。しかし、内容的には今回が第1部であり、前作が第2部。『スターウオーズ』のように、“ヒットしたから”と、通常は“次回作”となるが、前作に戻るという試みも面白い。最初よく分かなかった。でも“あーこう言う風につながるのか”と別な感心があった。東映時代劇のように『悲情城市』『花様年華』『HERO』の名優トニー・レオン(梁朝偉)、『LOVERS』のアンディ・ラウ(劉徳華)、『冷静と情熱のあいだ』の名花ケリー・チャン(陳慧琳)、『ドリフト』渋いアンソニー・ウォン、『アクシデンタル・スパイ』エリック・ツァンと豪華な組合せ。「ぜひ、本編エンドロール後も席を立たずにお待ちください!」とのこと。来春公開の第3作『インファナル・アフェア終極無間』の予告編が流れる。楽しみである。 その2つ目は、“無間地獄”。『インファナル・アフェア』は香港の『ゴッドファーザー』と評される作品。「無間」という二文字は「法華経」、「倶舎論」および「玄應音義」などの中国仏教経典に由来しており、意味はまさに本作品がテーマとしている“地獄”である。 《注》 一人で罪の償いをすることになる。 なる。 刑罰を受けることになる。 永遠に受け続けることになる その3つ目は、“イケメン”男優。韓国ドラマ『冬のソナタ』のぺ・ヨンジュ、その次回作『美しき日々』大ヒット映画『JSA』のイ・ピョンポン。韓国4千万人が観たという『ブラザーフッド』のウオンピヨンもキムタクに似るいい男。今回のエディソン・チャンもショーン・ユーもかっこいい。しかも、熟年のトニー・レオンとアンディ・ラウが1作と3作に出てくるとくれば、それを東銀座・三原橋「シネパトス」に並んで観に来る女性が多いのも頷ける。 ラストの音楽もいい。サスペンスの醍醐味と流麗な映像美にあふれる。運命に操られる群像劇を通して、中国返還を前にした90年代の香港の時代のうねりを伝える。犯罪映画「香港ノワール」復活を思わせる質の高い娯楽作である。 さらにこの映画に興味あるかたは次のストーリーを。 《『インファナル・アフェア 無間序曲』ストーリー》 1991年。尖沙咀(チムサアチョイ)に君臨する香港マフィアの大ボス、ンガイ・クワンが暗殺された。混乱に乗じて離反をもくろむ配下のボス4人。組織犯罪課(OCTB)のウォン警部(アンソニー・ウォン)と相棒のルク警部(フー・ジュン)は、抗争勃発に備えて厳戒体制を敷く。だが新参の5人目のボス、サム(エリック・ツァン)だけは静観を決め込む。因果応報を信じるサムは、時機を待つ気でいたのだ。そのために彼はラウ(エディソン・チャン)を警察に潜入させようと考えていた。ひそかに想いを寄せていたサムの妻マリー(カリーナ・ラウ)の口からそのことを告げられたラウは、危険を覚悟で引き受ける。 《第1作『インファナル・アフェア』ストーリー》 マフィアの組員ラウ(アンディ・ラウ)は、ボスであるサム(エリック・ツァン)の指示で香港警察に潜り込み、10年で内部調査課の課長に昇進。ベストセラー作家メリー(サミー・チェン)との結婚も内定していた。一方、ラウと同じ警察学校に通っていたヤン(トニー・レオン)は、組織犯罪課のウォン警視(アンソニー・ウォン)の指示で、サム率いるマフィアに潜入。今では麻薬取引を任されるまでになっていた。しかしヤンは長年に渡る内通捜査で自分を見失い、精神科医リー(ケリー・チャン)のもとに通院。いつしかヤンはリーを愛し始めていた。ある夜、ヤンから大きな麻薬取引を行うとの情報を得たウォン警視は、水面下で調査を始めるが、同時に警察の動きがラウからサムに伝わり、検挙も取引も失敗に終わる。双方にスパイがいることが明らかになった。ラウとヤンは、それぞれ裏切り者を探すよう命じられる。やがて争いの中で、サムの手下にウォン警視が殺される。サムの残忍さに嫌気がさしたラウは、サムを射殺。そしてヤンは、ラウがマフィアのスパイであることに気づくが、やはりサムの手下にヤンも殺される。残されたラウは、ヤンの分まで警官として生きていくことを決意するのだった。 【マイ・ボディーガード】★★★★★ ぜひお薦めしたい デンゼル・ワシントン迫真の演技、ダコダ・ファニング天性の表現力が最高! 暗黒のメキシコ・シティーに繰り広げられるかつてない誘拐事件アクション ロバート・レッドフォードとブラッド・ピッドの『スパイ・ゲーム』を監督したトニ−・スコット作品。『トレーニング・デイ』でアカデミー男優賞を獲ったデンゼル・ワシントンとアカデミー男優賞ショーン・ペンと共演した『アイ・アム・サム』の天才子役ダコダ・ファニングがボディーガードとその娘に扮して麻薬と汚職が渦巻く暗黒のメキシコ・シティーに繰り広げられるかつてない誘拐事件アクション。 ジョン・クリ−シー(デンゼル・ワシントン)は元CIAの特殊部隊員。任務のためとは言え多く人を殺してきた。良心の呵責に苦しみいつもジャック・ダニエルを手放せない自堕落な男に。メキシコ・シティーに住む昔の友人(クリストファー・ウオーケン)がクリ−シーを呼び寄せるところから映画が始まる。そこで、そのクリ−シーの才能を惜しむ友人は、若き実業家の娘のボディーガードとして再起することを進める。彼の様子を一見した母親は6人目の候補であるクリ−シーの採用を即刻、決める。やがて、娘ピタ(ダコダ・ファニング)が誘拐しようとする。その時、クリ−シーは4人の犯人を射殺したもののピタを守ることができず、重傷を負う。事件は、単なる誘拐事件を超したメキシコ警察の汚職と闇の組織の操る未曾有の事件へと発展する。 例によってこの映画のポイントを3つ挙げたい。その1つ目は、“異色の誘拐事件アクション”。本来、その1つ目は、“デンゼル・ワシントンとダコダ・ファニング”と最初に挙げたいが、それを押しのけて、“異色の誘拐事件アクション”と挙げるのは次の理由である。それはストーリーテラーの面白さ、スタイリッシュな画像にある。監督トニ−・スコットはトム・クルーズを売り出した『トップ・ガン』、ヱディー・マーフィーを男にした『ビバリー・ヒルズ・コップ』、ジョニ−・デップと世に出した『トルー・ロマンス』、さらにデンゼル・ワシントンと組んだ『クリムゾン・タイド』と常にヒット作を生み出すイギリス出身の監督(44年生まれ)。『ブラック・レイン』や『テルマー&ルイ−ズ』のリドリー・スコット(39年生まれ)の弟。円熟味を出した演出の切れ味が随所に見られる。アカデミー監督賞を獲ったスチーブン・ゾーンダイクが『トラフィック』でも使ったが、カットバックの繰り返しで画面のスピードを上げ誘拐場面や殺人場面をスリリングに写す手法が映画にフィットしている。まさに暗黒のメキシコ・シティーを表現するのに十分である。話しの展開も無駄がなく2時間25分があっという間に過ぎる。最後には、あっと驚く場面も用意し、感動の涙も流させてくれる。観客はその面白い映画を堪能する。 その2つ目は、お待たせ“デンゼル・ワシントンとダコダ・ファニング”。『トレーニング・デイ』でシドニー・ポワティエ以来、黒人2人目のアカデミー男優賞を獲ったデンゼル・ワシントンは、それ以来数々のヒット作品を生み出した。その中で今作品はとりわけ出色である。落ちぶれた哀しい表情とボディーガードとして周囲に目を配るシャープな厳しい表情、ピタと心通わせる優しい表情と思わず“上手い”と言わせる。特に、重傷を負っても病院から抜け出て殺された(?)少女ピタの復讐をする、誘拐グループの一人ひとりをあらゆる手段で容赦もしないで殺していくシーンの表情は凄い。原題「NAN ON FIRE(激する男)」である。その緊張感ある演技が映画全体を引き締める。一方、天才子役ダコダ・ファニング。デビュー作で6歳の知恵しか持たないショーン・ペンの父とのやり取りの難しく細やかな演技をした『アイ・アム・サム』、ジョディー・フォスターと堂々と渡り合った『パニック・ルーム』、アカデミー女優シャリーズ・セロンとの『コール』と数々の名優と共演した、誘拐事件の恐怖を体現する名子役である。今回も落ちぶれたクリーシーの心優しさを観ぬき接する表情、「仕事中(運転して学校に送る場面)は喋るな!」と恫喝されて拗ねる表情といい、これまた“上手い”。 その3つ目は、“共演者”、名作『ディアー・ハンター』近年のアカデミー助演賞の『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』のクリストファー・ウオーケンは、クリ−シーに理解を寄せるお得意の役どころ演じる。『ナイン・ハーフ』の色男ミッキー・ロークも老けたが怪しい弁護士を演じるにぴったり。そして、アンソニー・ホプキンスの『ハンニバル』でも汚れた刑事役を好演したジャンカルロ・ジャンニーニが今回も正義感もない、金と女に目のないメキシコ・シティーの刑事を演じた。 10月公開を12月末の正月興行に切り替えたのが頷ける凄い映画だ。 |