欧州鉄道の旅〜TGV最新事情

『フランスTGV,ドイツICEなど欧州高速化の進展を現地にみる』
        08年のヒット予測に欧州高速鉄道の旅

                     小 山 和 薈

モーターファンが新車に胸躍らすように、鉄道ファンは新車、新線に乗ってみたいものである。9月から10月にかけてJR北海道が会社発足20週年を記念して少人数による欧州鉄道の旅を企画していることを知り、札幌の妹にJR北海道に話を聞きに行かせた。

シャルル・ド・ゴール空港駅


 妹が私が行きたいくらいといわせた鉄道の旅は、パリ〜ストラスブール間の新線に開業して間もないフランス高速列車
TGV(トラン・ア・グランド・ヴィッテス)東ヨーロッパ線、ケルン〜フランクフルト間に高速新線を建設したドイツ高速列車ICE(インターシティ・エキスプレス)を乗るほか、フランクフルト〜ウィーン間で夜行寝台列車シティナイトライン、ウィーン〜チューリッヒ間で『トランスアルパイン号』、ルツェルンよりゴールデンパスラインでブリューニック登山鉄道線と世界一急勾配の蒸気機関車のブリエンツ・ロートホルン鉄道、クール〜ブリーグ間で『氷河急行』などを巡る鉄道を乗り継いできた。

TGV車内

 さらにJR北海道の旅グループとはパリで別れて、TGV地中海線のプロヴァンスまで行き、アヴィニョン、アルル、リュベロン地方まで足を延ばした。この後リヨンに行き、TGV地中海線の新線、新駅など高速化の進展を体験乗車する旅ができた。

パリ・リヨン駅〜TGV地中海線のターミナル

3年ぶり(パリは10年ぶり)に訪れた欧州4カ国の鉄道はみな旅の便利さ・楽しさが一段と進んでいた。

1)                 フランスとドイツとの高速列車の相互乗り入れは去る610日よりパリーフランクフルト、パリーシュトゥットガルトで開始した。TGVは将来ブタペストまでの乗り入れを見込んでいる。ICEはハンブルグから途中フェリーに乗せてコペンハーゲンまで乗り入れる予定だ。

2)                 シャルル・ド・ゴール空港駅(以下CDGと略)、フランクフルト空港駅など高速新線が直接ハブ空港に乗り入れ、航空機に対する競争力を誇示している。(例えばエールフランスのパリーストラスブール間の路線は既に廃止されている)

3)                 高速列車での食堂車やビュッフェサービスが徹底、旅での食事も配慮している。

  ただしTGVは高速化で食堂車より「バーコーナー」というビュッフェサービス

  への転換を図っている。

4)                 ドイツICEはケルンーフランクフルト間を最高時速300キロで運転していたが、フランスTGVが東ヨーロッパ線の高速新線の開通で時速320キロの営業運転を開始したことにより、同区間相互乗り入れのICEも同じく320キロの営業運転

を共に行っている。

  

アヴィニヨンのTGV駅

日本の観光業界は、外国観光客を大幅に増やしたいと政府も外国人観光客の受け入れ強化を図っているが、新幹線の『のぞみ』に乗れないジャパン・レイルパスや

『ひかり』の不便なダイヤ編成(JR東海の『ひかり』が新大阪駅に着く同時刻に隣のプラットホームよりJR西日本の新大阪駅始発の『ひかり』が発車して行く不便さがなかなか解消されず外国人観光客に不評)、ビュッフェを廃止した新幹線列車など、旅の楽しさ便利さをもっと考えなくてはならないだろう。

メニューは豊富

 今回特に欧州鉄道の旅で印象的だったことは

    パリ〜マルセイユ、ニースなどへの輸送力強化で地中海線は2階建てのデュプレックス車両が、パリの次に大きな都市マルセイユに行く線では第3の都市リヨンを通らず、パリを出るとアヴィニョン方面へ直行する新線を進行する。日本でいえば名古屋を無視して大阪に直行するような大胆な列車ダイヤ運行だ。とはいっても例えば在来線のアヴィニョン・サントル駅にもTGVを何本も運行させており、乗客には不便を感じさせない。日本の在来線は狭軌だが、フランスではTGVも在来線も同じ標準軌であり、日本のような在来線が新幹線による赤字路線転落とは異なるようだ。

    TGVはヨーロッパ東線の高速化を機会に全線座席の予約制を強化した。主要駅では予約席の窓口も増加され、1予約手数料3ユーロだ。これまで日本人観光客が予約せずにレイルパスを持って乗車しても寛容だったが、罰金が2050ユーロを科せられるなど注意が必要だ。立ち席券も売られており、車内でVISAカードでも乗車券を売っていた。

    TGV東ヨーロッパ線の新車のインテリアなどのデザインはフランスの誇る世界的ファッションデザイナーのクリスチャン・ラクロワ氏が山本寛斉などを退けて担当、1等車はグレイを基調としたライトグリーンでアクセントを

つけた落ち着きのある車内だ。2等車はパープルを基調にレッドを配したカラフルなデザインである。ビュッフェの名称は「Tous Bien」(ツー・エ・ビアンすべて素晴らしい)とフランス流のエスプリ溢れるネーミングである。

    CDC空港駅に行きたい乗客がパリ市内のターミナル駅にいったん立ち寄らなくてもCDG空港駅に直行する高速列車網は,きわめて便利だ。といってもパリに行きたい乗客には手前の駅でパリ方面に乗り換えられるように連絡線の便宜も図っている。TGVは主要なターミナル駅にいったん立ち寄らなくても目的地に直行する多彩なダイヤ編成となっており、前記のように

CDG駅まで乗車したTGVはマルセイユ始発のブリュッセル行きで、パリを

かすめてベルギーに直行する列車だった。

    東ヨーロッパ線のTGVの車両の編成は先頭が電気機関車、続いて2等車が4両、ビュッフェが1両、1等車が3両、最後尾が再び電気機関車の合計10

  両編成だが、多客時間帯は2編成を合わせて20両編成で運行するので通り抜けができない。地中海線でもそうであったが、号車ナンバーは整然とせず、プラットフォームに「号車案内」表示があちこちにあり、不便ではない。

    イギリス、ベルギーと共同運行している高速列車『ユーロスター』がイギリス国内の専用線建設が完成、1114日より出発駅がロンドン・ウォルタールー駅からロンドン・セントパンクラス駅が新しいターミナル駅にとなるなどによりイギリスでも300キロ運転が可能になり、ロンドン〜パリ間が2時間15分に大幅短縮され高速化がいちだんと進んでいる。最新のトーマス・クックの時刻表によればロンドンからアヴィニョンTGV駅にまで行くダイヤが掲載されており、文字通り「プロヴァンスへの贈り物」だ。

    このほかイタリー、スペインなどの高速新線の建設も進んでおり、西ヨーロッパ各国の鉄道の高速化の勢いは盛んだ。

メニューに寿司があるのはもう当たり前
ショーケースで販売されている寿司

2008年にヒットが予測される消費・商品』(日経トレンディ誌0712月号)にヒットが予測される海外旅行の中に「ヨーロッパ高速鉄道旅行」がランクされている。航空機の移動で見過ごされていたが、鉄道旅行による各国を巡る旅行商品が増える見込みという。高速鉄道を活用した旅が注目を集めるだろう。