KOTANIのシネマトーク
映画好き集まれ!
映画を観るときのご参考にどうぞ。
■ 【007カジノ・ロワイヤル】★★★☆ |
Date: 2007-03-01 (Thu) |
【007カジノ・ロワイヤル】★★★☆ (★−20点)
体を張ったアクションに新ボンド君、走って、走って2時間24分。ご苦労さま。
解説:英国諜報部に属する敏腕スパイ、ジェームズ・ボンドの活躍を描く人気スパイ・アクションのシリーズ第21弾。原点に戻った今作ではボンドが殺しのライセンスを持つ“007”になる前の物語から始まり、国際テロ組織の壊滅が初任務となるボンドの奔走を活写する。6代目ボンドに『ミュンヘン』のダニエル・クレイグ、ヒロインのボンドガールに『ルパン』のエヴァ・グリーン。豪勢なカジノを舞台に繰り広げられる駆け引きがスリル満点。
ストーリー:英国諜報部MI6のスパイである‘00’の地位に昇格したジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)は、最初のミッションとして国際テロ組織のネットワークを絶つ任務を課される。テロ組織の資金源であるル・シッフルと接触を命じられたボンドは、モンテネグロのカジノでル・シッフルと高額の掛け金のポーカー対決を開始する。
シネマトーク:大学1年のとき『ドクターノー』(1962)(公開時は『007は殺しの番号』)を観て驚愕した。渦巻き型の幾何学パターンを用いたアニメーションのタイトルを背景に迫力あるモンティ・ノーマン作曲による「ジェームズ・ボンドのテーマ」と、音楽監督ジョン・バリーのオーケストレーションによる007サウンドにのってショーン・コネリー登場。命がけの駆け引き、美女との危険な恋やスリリングな銃撃戦など、007シリーズの醍醐味のあるスパイ・アクションに23歳の青年は魅了された。以来40年、1作も欠かさず007を見続けてきた。007は私の映画鑑賞の歴史でもある。迷惑メールで変更する前のアドレスはykotani007@yahoo.co.jpであった。欠かさず観た長寿シリーズは『男はつらいよ』の48作、TVドラマ『北の国から』第1作から最終回スペシャル『遺言』(02)などがある。
例によって今回のKOTANIの見どころポイントを3つ挙げてみる。その1つは、“新ボンド”。20作の『007 ダイ・アナザー・デイ』のピアース・プロスナンに替わって、どんなボンドか、と興味津々で観に行った。率直な感想は“筋肉ムキムキで体自慢なボンド”と言ったところ。少々残念だ。007ファンならそれなりに楽しめるからなんとも言えない。たまに悪役っぽい顔になったりする。個人的にはあまりすきになれない俳優です。私のボンドはショーン・コネリーと5代目ピアース・プロスナンである。むせるような男の色気がない。ピアース・ブロスナンの降板が決定して以来、幾多の俳優が候補に挙がっては消えた。ジュード・ロウ、クライヴ・オーウェン、ユアン・マクレガーといったイギリス人俳優のほか、オーストラリア出身のヒュー・ジャックマン(『Xメン』シリーズの主役)なども候補に挙がっていた。そして、2005年10月14日(奇しくも私の誕生日)。ロンドン・テムズ川で行われたシリーズ第21作『007カジノ・ロワイヤル』の記者会見にさっそうと現れた新ボンドは、イギリス出身の実力派、ダニエル・クレイグ。プロデューサーは200人以上もの候補のなかから彼を選んだと語る。シリーズを通して、初の金髪ボンドの誕生だ。大抜てきされたダニエル・クレイグは、1968年、イギリス・チェスター生まれ。180cmの長身に金髪、整った顔立ちと鋭い眼光そして青い瞳を持ち、少し陰りのある雰囲気を漂わせる。1992年に『パワー・オブ・ワン』で映画デビュー、2002年には『ロード・トゥ・パーディション』でポール・ニューマンの息子役を演じて高い評価を得る。スティーヴン・スピルバーグ監督作品『ミュンヘン』(2005)の傭兵(ようへい)役も記憶に新しい。アメリカの男性ファッション誌でベストドレッサー賞に選ばれたほどファッショナブルで端正なルックス。007ファンの間ではダニエル・クレイグのキャスティングについて賛否両論の声が飛び交ったが、2008年公開予定のシリーズ第22作の続投が決定した。
ダニエル・クレイブ。彼は1968年にチェスターで生まれ、リバプールで育つ。リバプール・エブリマン劇場で初めて演劇に触れる。10代後半にロンドンに出て、ナショナルユースシアターに入り、その後TV、舞台、映画と活躍を続け、今や英国を代表する俳優となる。2002年のサム・メンデス監督作『ロード・トゥ・パーディション』で絶賛され、翌年には詩人夫婦テッド・ヒューズとシルヴィア・プラスの生涯を描いた『シルヴィア』のテッド・ヒューズ役でグウィネス・パルトロウと共演した。昨年の10月、イオン・プロダクションズとソニー・ピクチャーズから6代目のジェームズ・ボンド役に選ばれ、世界中の話題を集めたとのこと。
その2つは、“スパイアクションへの回帰”。宇宙だとか現実離れした作品に飽きていた。そこで 体を張ったアクションへの回帰であった。確かに冒頭のアクションシーンは凄かった。手に汗握ったし圧倒された。しかし、途中でストーリーもよくわからないし、カジノのシーンだって、ポーカーのルールがわからないとまったくつまらない人はいるのでは。
後半、いよいよカーアクションが始まるのか?と思いきや肩透かし。アクションシーンは始めだけ。多少、長くて飽きた。映画のテイスト自体は『女王陛下の007』『リビング・デイライツ』のような“恋愛”を出してきた。この映画だったら007というタイトルをつけないで別の映画にしてほしいとも思う。
その3つは、“映画評論家”。日経金曜夕刊の「シネマ万華鏡」を楽しみして、観賞の目安にもしている。あの意地悪女性評論家の渡辺祥子は★★★★★であった。基準は「今年有数の傑作」と言うことである。★★★★は「見逃せない」、★★★は「見ごたえあり」、★★は「それなりに楽しめる」★は「話題作だけど」である。いままでの007より新鮮で「女性と友情も分かち合う」との弁も分からなくはないが、『硫黄島からの手紙』の★★★★★(宇田川幸洋)、『武士の一分』の★★★(白井佳男)がその評価なのに、たかだかアクション映画で★★★★★とは評論家の心眼を疑わざるを得ない。前の会社が一時試写会のスポンサーをしていた関係上、報知映画賞の発表・授賞式にでたことが数回ある。そのとき大久保賢一さんや渡辺祥子さんの選考の弁を聞いたことがある。一言でいえば“個人的趣味からの選考”であった。有体に言えば、「自分の好み」である。品田雄吉先生(この人だけは先生と呼べる)とお話する機会があったが、彼はニュートラルで正論であった。まあ、そうがちがちならず参考意見として聞いておけばいいのかと思う。事実、こうしてシネマトーク自体が個人の好き嫌いで語っているのである。それでも、007は本当に楽しめる。
最後にボンドガールのエヴァ・グリーンの紹介を。1980年7月5日、フランスのパリに生まれる。母親はアラン・ドロン主演『雨の訪問者』の女優マルレーヌ・ジョベール。双子の妹がいる。エヴァ・セント・ポール・スクールに3年間在籍した後、ウェバー・ダグラス・アクティング・スクールでロンドン・ワークショップに参加。パリに戻った後、舞台に出演する。映画デビューは巨匠ベルトルッチ監督の『ドリーマーズ』で、この作品に感銘を受けたジョルジオ・アルマーニによってエンポリオ・アルマーニのモデルにも起用される。さらに、アルマーニから旧友リドリー・スコットへの推薦がきっかけで『キングダム・オブ・ヘブン』(オーランド・ブルーム主演)『グラディエーター』のリドリー・スコット監督最新作のヒロインに抜擢され一躍ハリウッドでも注目の存在となる。
《もっと読んでも言い方には、あと3つ》
007の歴史:1960年頃、フレミングの原作を読んだプロデューサーのアルバート・R・ブロッコリは、「これは映画化に向いている」と感じ、フレミングに交渉を求めた。しかし、フレミングは映像権を一足先にハリー・サルツマンに売り渡していた。ブロッコリは直ちにハリー・サルツマンと接触、二人は手を組んでイオン・プロダクションを設立し、協力して007映画の製作に当たることになった。検討の結果『ドクター・ノオ』が映像化に最も向いていると判断され、ユナイテッド・アーティスツを配給会社に、職人肌の監督テレンス・ヤングを当てて映画化した(1962年公開。邦題は『007は殺しの番号』)。この映画は低予算ながらも、予想以上の大ヒットとなった。主役のショーン・コネリーはこの1作で成功、ボンドは彼の当たり役となった。モンティ・ノーマン作曲、ジョン・バリー演奏の「ジェームズ・ボンドのテーマ」も大好評で、以後の作品のオープニングで、ボンドを狙う銃口—逆に撃たれて血を流すシーンと共に必ず流されるようになった。
この作品のヒットに影響され、1960年代中期には「007もどき」のB級スパイ映画が世界各国で濫造されたが、一つとして007を超える成功を収めたものはなかった。
『ドクター・ノオ』以後、イオン・プロダクションによってプロデュースされる007映画は、主演俳優を幾度か変えつつも、現在に至るまで人気シリーズとして存続している。シリーズでも特に有名な作品として、第2作『007 ロシアより愛をこめて』(初公開時の邦題は『007危機一発』)(1963年)が挙げられる。1970年代初期以降の作品は、フレミングの小説から題名のみを借りたシナリオライターによるオリジナルストーリーで、原作とほとんど無関係となっている。その内容は、派手な設定とグラマラスな美女、大物俳優のゲスト出演をセットとした、エンターテインメントの王道とも言うべきもので、設定は全般にマンネリズムの傾向が強い。
007全作品:
ショーン・コネリー 主演作品
第1作『007 ドクター・ノオ』 (1962年/テレンス・ヤング監督)
第2作 『007 ロシアより愛をこめて』 (1963年/テレンス・ヤング監督)
※日本初公開時の邦題は『007 危機一発』
第3作『007 ゴールドフィンガー 』 (1964年/ガイ・ハミルトン監督)
第4作『007 サンダーボール作戦 (1965年テレンス・ヤング監督)
第5作『007は二度死ぬ 』 (1967年/ルイス・ギルバート監督)
第7作『007 ダイヤモンドは永遠に』 (1971年/ガイ・ハミルトン監督)
番外編『ネバーセイ・ネバーアゲイン』 (1983年アーヴィン・カーシュナー監督)
ジョージ・レーゼンビー主演作品
第6作『女王陛下の007』(1969年/ピーター・ハント監督)
ロジャー・ムーア主演作品
第8作『007 死ぬのは奴らだ』(1973年/ガイ・ハミルトン監督)
第9作『007 黄金銃を持つ男』(1974年/ガイ・ハミルトン監督)
第10作『007 私を愛したスパイ』(1977年/ルイス・ギルバート監督)
第11作 『007 ムーンレイカ』(1979年/ルイス・ギルバート監督)
第12作『007 ユア・アイズ・オンリー 』(1981年/ジョン・グレン監督)
第13作『007 オクトパシー』(1983年ジョン・グレン監督)
第14作『007 美しき獲物たち』(1985年/ジョン・グレン監督)
ティモシー・ダルトン主演作品
第15作『007 リビング・デイライツ』(1987年/ジョン・グレン監督)
第16作『007 消されたライセンス』(1989年/ジョン・グレン監督)
ピアース・ブロスナン主演作品
第17作『007 ゴールデンアイ』(1995年マーティン・キャンベル監督)
第18作『007 トゥモロー・ネバー・ダイ 』(1997年/ロジャー・スポティスウッド監督)
第19作『007 ワールド・イズ・ノット・イナフ』(1999年/マイケル・アプテッド監督)
第20作『007 ダイ・アナザー・デイ 』(2002年/リー・タマホリ監督)
主題歌:メインテーマ曲を一番たくさん歌っているのはシャーリー・バッシー。『ゴールドフィンガー』『ダイヤモンドは永遠に』『ムーンレイカ』の3回。
第1作『007 ドクター・ノオ』のオープニング曲は「ジェームズ・ボンドのテーマ」で、ボーカルのメインテーマはない。第6作『女王陛下の007』もメインテーマはインストゥルメンタル曲だが、ルイ・アームストロングが歌った挿入歌「We Have All The Time In The World( 愛はすべてをこえて)」が劇中とエンディングに流れ、印象深い。
■ シネマトーク再開 |
Date: 2006-11-01 (Wed) |
あることのための映画鑑賞を封印してきました。でも、一応のめどが付きかけましたので
先週位から堰をきったように再開してきました。3本連続でみました。
・ヒッチコックを敬愛するブライアン・デ・パルマーのエロティックサスペンス『ブラック・ダリア』★★★★
・ 9.11の再現。痛ましいテロに多くの犠牲者がでたのを後世に残すようにと作った『ワールド・トレード・センター』★★★
・『ダイハード』並みとはいかないまでも窓際刑事のブルース・ウイルスが気持ちよく演じる『16ブロック』★★★
そして、28日(土)からはクリント・イーストウッドの「硫黄島プロジェクト2部作」の1作目『父親たちの星条旗』が
始まります。
映画『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』公開に際して
「小雨の降る日の夕方、新聞記者の“私”の前にくたびれかけた紺のサアジの背広を着た片桐正俊があらわれた」という書き出しの小説は1957年上期の芥川賞作品、菊村到の『硫黄島』である。硫黄島の地下壕に潜んで4年目にアメリカ軍に投降し、無事日本に帰還した硫黄島警備隊員の物語である。主人公の片桐がアメリカ軍の許可を得て、硫黄島の土中に埋めてきた日記帳を取りに行くことになり、新聞記者の“私”にそれを記事に取り上げてくれぬかと申し出るところから話ははじまっている。
9月から勤務する事務所で本を出版するために、勤務のない日に集中して原稿を書ける環境を得られる図書館に週2回ほど通っている。ある日、10月28日から公開のスピルバーグ製作、クリント・イーストウッド監督の映画『父親たちの星条旗』を見る前に硫黄島に関する情報を得るために館内で硫黄島に関する書物を検索していた。そのとき、ふと芥川賞全集に第32回芥川賞に『硫黄島』が受賞していることを知った。第29回が石原慎太郎の『太陽の季節』であった。川端康成、井上靖、石川達三らが選考委員であったのに驚く。短編ゆえ一気に読めた。
周知のこととは思うが、映画『父親たちの星条旗』は、イーストウッド監督の「硫黄島プロジェクト2部作」の1つで、アメリカ側から描いたもの。いまもアーリントン墓地には、1945年2月23日、硫黄島に上陸して4日目、摺鉢山頂に強風の中をもろともせず星条旗を掲げた6人の兵士の銅像がある。この勇気ある英雄の写真がアメリカ本土に公開され、アメリカ人の志気高揚を煽ることとなったのは有名な話だ。しかし、事実は異なる。実は4人であったという。旗が小さかったので再び6人で大きい旗を掲げたという。1954年に当時の写真をもとにして世界一の巨大な銅像が建てられた。
2006年米アカデミー作品賞候補になったスピルバーグ監督作品『ミュンヘン』を思い起こす。ミュンヘン・オリンピックでパレスチナゲリラによるイスラエル選手団襲撃事件に、激怒したイスラエル機密情報機関が報復を企てる。リーダーに任命されたアヴナー。人を殺したことなどない彼は妊娠7か月の妻を残し、愛国心と哀しみを胸にヨーロッパに渡るユダヤ人選手を大量に殺した殺人者一人一人に復讐する話だった。エリック・バナー扮する主人公は、熱い思いをもって“仕事”をするが、やがてこれでいいのかと疑問を持ち始める。『父親たちの星条旗』も実はよく似た話だ。『父親たちの星条旗』は、その6人が帰国して英雄視されることに良心の呵責に苛まれるというストーリーだ。
一方、日本側から硫黄島を描くのが12月9日公開予定の『硫黄島からの手紙』である。東南海岸から上陸したアメリカ軍は、当初、3日で島を制圧できると想定した。しかし、日本軍の予想外の抵抗にあって、勝利を収めるまでに36日かかった。20,128名の日本兵が戦死したが、3倍の兵力をもって攻撃してきたアメリカ軍も6,821名の戦死者と21,865名の戦傷者を出して戦いは終結した。双方ともに渾身の力をふりしぼったせいか、アメリカ海兵隊員たちの中には帰国して平静をとりもどしてから、日本兵に対して敵ながらあっぱれと畏敬の念を抱くようになった者も多い。この日本兵を指揮したのが栗林忠道中将である。上陸とともに“突撃”してくるものとばかり予想したのに反し、日本兵は、地下壕に潜み、夜にでてアメリカ軍を奇襲攻撃するという作戦に出た。栗林の頭脳作戦は、戦後語り継がれることとなった。造った地下壕は全長28キロメートルに及ぶ。いまも硫黄島には残る。
その硫黄島の戦いと地下壕生活は、8月にNHKスペシャルで『硫黄島、玉砕せり』で放映された。1000人余名の生き残り戦士のうち、数人の証言を元に作られた番組である。暗い地下壕で何年も、天水を溜め、草木で飢えを凌ぎ、練炭の墨をも食むって生き抜く、その凄まじい人間業とも思えぬ生き方に声を失う。
そこで、兵力に勝るアメリカ軍を1ヵ月も硫黄島に足止めして、来るべき沖縄の本土決戦のための日本軍の時間稼ぎの“犠牲”となった。参謀本部の指令を守るために戦ったのだ。そこには、厳しい軍律がある。「断じて投降するな。玉砕せよ」と。つまり、玉砕とは神風特攻隊と同じように、敵に身をもって突撃し、生きて帰れないことを意味する。そのゲリラ作戦にアメリカ軍は悩まされ、長期戦となったのだ。
銃弾も尽き、兵士も少なくなって明日は、地上に出て最後の“突撃”となる日、栗林は、日本に打電する。「国の為重きつとめを果し得で 矢弾尽き果て散るぞ悲しき 仇討たで野辺には朽ちじ吾は又七度生まれて矛を執らむぞ 醜草の島に蔓るその時の 皇国の行手一途に思ふ」と。ところが日本に届いた手紙は「硫黄島、悔しきぞあり」と改題された。まさに『父親たちの星条旗』の日本版である。戦意高揚に使われたのだった。その映画『硫黄島からの手紙』の主人公栗林中将には、渡辺 謙が扮する。
話は戻るが、小説の主人公、片桐は硫黄島の地下壕に仲間と天水を鍋蓋に貯めて水分を補給し、昼間地下に潜み、夜になって食べ物を得るために外にでる生活を4年続けた。あるとき、何日も水を喉に通してないため、死人が持つ水筒を奪おうとした。しかし、死んでいるはずの兵士に突き飛ばされたが、無理やり奪った。生きるためにだ。日本に帰還してからも「俺は生きるためとはいえ、死人から水を奪った」という後悔に苛まれることになり、平穏に過ごせない。そこで意を決して、手を尽くして4年後にアメリカ軍の許可を得て、戦友が眠る硫黄島に埋めた「日記帳」を取りに行くという口実で硫黄島にもどる。結果、目印を付けたはずの場所は、意外なほど変貌し地下壕は見つからず、日記帳も探せなかった。硫黄島の南端の摺鉢山頂に着いた片桐は、しばし感慨深げに海を見渡し、島の全貌を見下ろしていた。やがて、アメリカ軍の車に戻ろうとしたとき、踵を返して走り出し、あっという間に摺鉢山の断崖から「バンザイ」と叫びながら太平洋に飛び込んだ。6年前に3千人の日本兵が玉砕した場所で自殺を遂げたのだ。
これは、事実に基づいた話である。同じく図書館で借りた上坂冬子の1993年の『硫黄島いまだ玉砕せず』というドギュメンタリーを読んで分かった。
岩手出身の山陰光福二等兵曹24歳が、片桐のモデルである。帰還後、江東区北砂に下宿した。しかし、もどった祖国日本では朦朧とした生活をしたという。帰還したもう1名は、千葉県出身の松戸利喜夫水兵長38歳であった。その死は謎である。部下の松戸を日本に帰還させることが上官の使命と思ったのだろう。責務を果たせて、今度は、硫黄島に戻り、戦死した戦友の元に戻ったかとも推測される。
上坂冬子ドギュメンタリーの中心は硫黄島攻撃の開始4ヵ月前に、1945年に硫黄島を離れ、本土の情報担当に転勤命令のために、戦死をのがれた和智恒蔵大佐の話である。和智は、部下が硫黄島で玉砕したことを知り、驚愕する。もし、そのまま硫黄島に留まっていれば、部下とともに硫黄島の土に埋もれた運命を辿ったと。戦後、托鉢し僧侶となった。1900年に生を得て、1945年硫黄島に赴任。1989年に没するまでの半生を、硫黄島で戦死した兵への慰霊にあてるために仏門に入った。残る人生を供養するために捧げた。8年の歳月を掛けてアメリカ軍に「硫黄島に渡りたい」との“嘆願書”を何度も、何度も書き続けた。念願叶って和智は硫黄島への慰霊渡航を果たす。その硫黄島の映画の公開が始まる。
■ シネマトーク番外編小池真理子のお気に入りスター |
Date: 2006-08-22 (Tue) |
KOTANIのシネマトーク各位
いつも大変お世話になります。小谷です。
暑い夏です。早稲田関係出身の方、早稲田実業高校の優勝、おめでとうございます。
この暑さを吹き飛ばす甲子園劇場でした。当分、美顔のハンカチ投手斉藤佑樹君の話題でしょうね。
その「出身の話題」について。現在の勤務先に成蹊大学出身者がいます。ある会議後の懇親会で、
その話となった。「成蹊大学出身には、異色の人物がいますね。俳優の中井貴一とか、官能小説の
小池真理子も成蹊大学です」となった。通勤電車での時間潰しに西村京太郎のトラベルミステリー
小説専門であった私だが、この話題についていくため早速、彼女の作品である、普通の女性のさりげ
ない殺人劇の出世作の短編『妻の女友達』からヌードモデルの不倫を描いた『虚無のオペラ』、男の温
もりを求め娼婦と化す薄幸の女を描く最近作の『青山娼館』等を図書館で借り濫読。小池真理子の小説
は、仄(ほの)暗く深い海をどこか思わせる。そこに潜むのは、罪を犯した人間の情念や学生運動の匂
(にお)いが染み込んだ過去の思い出、滴がしたたり落ちるような愛……とのこと。小説に登場する多
くの人物は、冷静と情熱、清純と官能、生まじめさと奔放といった相矛盾する二面性を兼ね備えた魅力がある。
その作品群に、映画俳優評なる書物があった。「愛とエロス」を書く彼女ならではの感性から評したもの。
「お気に入りスター評」のようなものだ。今回は、その一端を紹介で「KOTANIのシネマトーク番外編」
とさせていただきます。その官能調を味わってください。クイズ形式でいきましょう。
答えは最後に記載しています。
シネマトーク番外編「小池真理子のお気に入りスター評について」
1.「かくも美男で、かくむんむんと男の性の匂いを発散させ、かくも色っぽいというのに、これほど性的なものを隠蔽してしまう人も珍しい。…稀代の照れ屋であるようにも見受けられ、おそらくそれは事実なのだろうが、照れ屋だからということと、役者として性を隠蔽してしまうということは必ずしも一致しないだろう。……セリフまわしに独特の間合いがある。ほとんど無言のままセリフを語る、と言ってもいい。饒舌とは無縁で、沈黙こそが彼の中の多くを表現する。『遥かなる山の呼び声』の中で、○○○は少年にこう語りかける。《男が生きていくには、我慢しなくちゃならないことがいっぱいあるんだ》と。それはそっくりそのまま、この美しい男優に返っていく言葉であろう。」
2.「どれほどおきゃんな小娘の役を演じようと、どれほどピューリタン的禁欲主義者を演じようと、そこに本人ですら気がつかない、いかんとも制御しようのない魔物のような女性像が、どうしょうもなく滲み出てしまうのである。だいたい『天城越え』を思い出せば、この女優がいかに妖艶な気配を漂わせる女優であったか、わかるというものだ。伸ばした指先の一つ一つにまで、この人は色香を表現する。仕草そのものに艶がある。計算され尽くした色気ではなく、それはやはり天性のものだろう。この人の目は小さく、細いというのではない、腫れぼったいわけでもない、ただ単に、文字通りの小さい目なのだが、その小さい目には時としてありとあらゆる女の独り言が表現されていて、見ていて怖くなることさえある。…媚や男に向けた意味深長な微笑みを唇で表現する女優はあまたいるが、●●だけは、あの小さな目で表現し尽くすのである。…」
3.「お世辞にも、ぱっと目立つ美男子ではないし、格別、演技に華があるというわけでもない。◎◎は1960年代から1970年前半にかけて、とてつもなくデカダンスの香り漂う大作、佳作を山のように残してくれた。ご存知、ルキノ・ヴィスコンティ監督によるドイツ三部作のうち『ベニスに死す』『地獄に堕ちた勇者ども』『ルートヴィッヒ』では他の追随を許さぬ名演技を残している。とりわけ『ベニスに死す』では、死の影をまとうアシェンバッハ教授になりきった彼が、ビヨルン・アンドレセン演じる美少年に惹かれていく風景の、何とエロティックで美しかったことか。ラストシーンに流れる、マーラーの美しいアダージェットの旋律と共に、◎◎は私の記憶にしっかりと刻みこまれてしまっている。」
4.「いつも泣いたような、腫れぼったい目をしている。…その腫れぼったさは瞳の表情を隠したり眠たげに見せたりするわけではなく、むしろ逆で、この人の瞳にはいつも見る者をうんざりさせるほどの夥しい厄介な感情の嵐がこめられているのである。……彼女の目は時として意地悪そうな三白眼に見えたり、憎々しげな上目づかいをしているように見えたり、あるいは、東洋的なキツネ目のように釣り上って見えたりする。代表作となった『愛の嵐』では、ナチの収容所で上半身裸になり、サスペンダー付きの男者のズボンをはかされ、軍帽に黒革の手袋といういでたちで、将校たちを前に頽廃の極致とも言える官能的な踊りをみせるユダヤの女を演じたが、その一切の無駄な肉を省いた、怖いほど清潔そうな、尖った感じのする骨っぽい裸に三白眼やキツネ目がよく似合っていたことはいうまでもない。…」
5.「くちびるから顎にかけての線が美しい。小作りの顔のわりには前歯が猛々しいほど大きくて、厚みのあるくちびるからはみだしそうな勢いを見せているのが官能的である。この人が口を開いて、あのなんともけだるい、空気がこもったような声を発するたびに、早くもあたりに妖しい気配が蔓延し始める。あの口もとに、あの声、という組み合わせは、まさしく神が与えたもうた最良の、最上等の組み合わせと言うほかはないだろう。…彼女にあるのは、隠され、閉ざされ、音もなく闇に向かって沈んでいこうとするような、謎めいた官能美だ。…水上勉の『越前竹人形』に代表されるような、地方の寒村などを舞台に、暗い情念を演じるときの□□が好みである。佐久間良子なども、同系列に入れることができるかと思うが、佐久間は□□に比べて精神の強靭さが浮き彫りになって見えてしまうところがあり、その点、淫靡さに今ひとつ欠けるような気もする。…女優としては、正妻よりも愛人を演じるのが似合っていたが、その印象を裏切って高名建築家と結婚してからは、潔く銀幕から遠ざかった。利口な人なのだろう」
【小池真理子プロフィール】←知りたい人のための情報
1952年10月28日東京生まれ。成蹊大学文学部英米文学科卒業。出版社勤務、雑誌新聞等のフリーライターを経て、78年、初めてのエッセイ集『知的悪女のすすめ』を発表、話題になる。以後、エッセイストから作家に転身し、85年、初のミステリ長編『あなたから逃れられない』を刊行。89年、短編『妻の女友達』で第42回日本推理作家協会賞を受賞。96年、『恋』で第114回直木賞を受賞。以後、官能的な恋愛小説を多く手がけ、98年、『欲望』で第5回島清恋愛文学賞を受賞。短編、長編、エッセイ集等、著書多数。夫は作家の藤田宣永。90年より長野県軽井沢町在住。
【クイズの答え】1高倉 健 2田中裕子 3ダーク・ボガード 4シャーロット・ランブリング 5若尾文子
■ 【M:i:㈽】★★★★シリーズ最高傑作の声。トム・クルーズが熱演。久しぶりの手に汗握るアクション登場! |
Date: 2006-07-12 (Wed) |
解 説:トム・クルーズが製作と主演を兼ね、名作TVドラマ「スパイ大作戦」をリメイクした人気スパイ・アクションのシリーズ最新作。絶体絶命の危機の中でミッションを遂行する敏腕スパイ、イーサン・ハントの活躍を描く。『カポーティ』(06)でアカデミー賞の主演男優賞に輝いたフィリップ・シーモア・ホフマンが、トムを罠にハメる悪役を怪演している点も見逃せない。
ブライアン・デ・パルマ、ジョン・ウーに続き、トム・クルーズが今作の監督に大抜てきしたのは、『エイリアス』『LOST』のテレビシリーズでエミー賞を獲得したJ.J.エイブラムス。複雑なプロットを手際よく見せ、想像のつかない意外な結末に落とし込んでゆくその手腕に、早くもシリーズ最高傑作の声があがっているとか。スリリングな展開のなかにも愛情や友情を表現し、『M:i:㈽』にかつてないリアリティを盛り込んだのも“最高のストーリー・テラー”といわれる彼ならではとのこと。さらに、イーサンをかつて経験したことのない過酷な状況に追い込む最強の敵が今回の作品で登場。知能プレイはもちろん、これまでにない派手なアクションも満載。あらゆる要素がつまった超一級のエンターテインメントが『M:i:㈽』だ。
ストーリー:不可能なミッションを遂行してきた天才的スパイのイーサン・ハント(トム・クルーズ)は、敵の罠に落ち、前例のない衝撃的な計画に翻ろうされてしまう。イーサンは己との戦いを克服し、成功率0%の任務を成し遂げるため、バチカンや上海へと飛ぶ。そして最高機密組織I.M.F.の新たなるメンバーとともに任務を遂行するが……。
シネマトーク:きまぐれな性格のイーサン・ハントは一作目の仲間意識が強いエリート、前作㈼では、勝手でキザな暴れハンサムガイへと変貌。今回の㈽は愛のために戦う戦士に生まれ変わった!物語や世界観も前作の中途半端なカンフースタイルから、1作目のリアリティさから地味な部分を取り除いたというスタイルを確立することに成功していい感じのスパイアクションへ生まれ変わっている。流れもスピーディーでテンポが良く、最後まで飽きずに見ることができる。
内容がとても複雑で、二転三転するが、前述のJ.J.エイブラムスの脚本と演出の冴えで、複雑なプロットを手際よく見せるのでついていける。最近のこの手のアクションは、やたら音量を高くしてCGFを使いまくりオーバーに映像表現するが、この作品は、そこのところを実写に近いようにまじめに撮影しているのがいい。
かつて『007シリーズ』では、ボンド役は第1作の『007は殺しの番号』の初代ショーン・コネリー、2代目は第6作かだけの『女王陛下の007』のジョージ・レイゼンビーから第8作から『死ぬのは奴らだ』ロジァー・ムーア、15作から『リービング・ディライツ』のティモシー・ダルトン、第17作からショーン・コネリー以来のはまり役と言われる『007ゴールデン・アイ』のピアース・ブロスナンまで5人で、21作を数える(番外編を入れるともっとあるが)。
あまりにも近代兵器を操って悪人を簡単にやっつけるのは本来の「007」ではない。やはりボンドが体を張った手に汗にぎるアクションがない007ではないと、再びオツムの乏しくなったショーン・コネリーを再登場させて番外編として14作『ネバーセイ・ネバーアゲイン』を作った経緯がある。(あまりヒットしなかったが‥)今回の㈽でも、トム・クルーズがスタントを自分でこなすほどの力の入れよう。特に、悪漢のフィリップ・シーモア・ホフマンを護送中に橋をミサイルで爆破され、それに逃げながら対抗してトムがよく走る、よく走る!シーンは実に凄い。最近の名作マット・デイモンの『ボーンスプレマシー』を思わせる。バチカン宮殿に潜入して、悪漢のフィリップ・シーモア・ホフマンを「拉致」するくだりなども、TVのピーター・グレイブス、マーチン・ランドーが活躍した『スパイ大作戦』を髣髴させるもので、とても楽しめる。
ラストの上海舞台のところも、どんでん返しもなかなかのもので凝っている。がんがんぶっ飛んで、すっきり、なぜか手に力がこもる・・・そんなふうに、面白かったですよ。ところどころジョークあり、スカッとする。とにかく、この暑い夏には、もってこいの、久しぶりに手に汗握るアクション映画である。
■ 【インサイドマン】★★★★ 凝ったサスペンス映画、銀行強盗、刑事などの描き方にユーモアが効いていて、とても味わい深い |
Date: 2006-06-14 (Wed) |
解説: 銀行強盗グループと事件解決に向けて奔走する捜査官、そして現場に駆けつけた女性交渉人らの心理戦を描いたサスペンス。監督は『25時』のスパイク・リーが務め、監督とは『マルコムX』以来2度目のタッグを組んだデンゼル・ワシントンが主人公の捜査官にふんする。銀行強盗をクライヴ・オーウェン、交渉人をジョディ・フォスターが演じ、ハリウッドを代表する演技派たち豪華キャストの手に汗握る演技合戦が見どころとのこと。
クライヴ・オーウェンは、『クローサー』(04年)でゴールデングローブ賞に輝き、アカデミー賞にもノミネートされるなど、人気・実力とも急上昇中の俳優だ。そのオーウェン扮する犯人に、翻弄されながらも渡り合う捜査官役に、『グローリー』(89年)と『トレーニング・デイ』(01年)で2度のアカデミー賞に輝くデンゼル・ワシントン。映画の前半は、この2人の駆け引きが観客を魅了する。だが、ほどなくして警察側は、犯人グループが金目当てではないことに気づき始める。そんな折り、強盗に入られた銀行のトップの特命を受け登場するのが、『告発の行方』(89年)と『羊たちの沈黙』(91年)で2度のアカデミー賞に輝くジョディ・フォスター扮する弁護士だ。
ストーリー:狡猾な男ダルトン(クライブ・オーウェン)率いる4人の銀行強盗グループが、白昼のマンハッタン信託銀行を急襲、従業員と客を人質に取り立てこもる。事件発生の連絡を受け、NY市警のフレイジャー(デンゼル・ワシントン)が現場へ急行する。しかし、周到な計画の下、俊敏に行動する犯人グループを前に、フレイジャーたちも容易には動きが取れず膠着した状態が続く。一方、事件の発生を知り激しく狼狽するマンハッタン信託銀行会長アーサー・ケイス(クリストファー・プラマー)。彼は、やり手の女性弁護士マデリーン(ジョディ・フォスター)を交渉人として呼び出すと、ある密命を託し、現場へと送り出すのだった…。事件は、通常の銀行強盗とは違った趣きで、ドラマは意外な展開をみせる。
シネマトーク:デンゼル・ワシントン、ジョディ・フォスター、クライヴ・オーウェンといった
演技派の俳優たちが、こぞって出演した見応えのある作品。他にもウィレム・デフォーとかクリストファー・プラマーとかいわくありげな俳優も出てきて面白さがつきない。
銀行強盗の犯人側と捜査官たちとの、丁々発止のやり取りが中心となり、先の読めない展開は、従来型の単純な銀行強盗モノと違い、犯人の本当の狙いに「謎」を残してぐんぐん引っ張る。血を流さずに、あるもの?を奪おうとする正体不明の犯人グループ。その両者の間で翻弄される弁護士と刑事と弁護士を雇う銀行のボス。この4者の人生観の違いや、腹の探り合いをみせる脚本は、面白く楽しめる。全編、緊張感が張り詰め、次の展開が楽しみで見逃せない。最近の「トランスポーター2」のようなお気楽アクションではなくボーっと観ていると、ついていけなくなる。出演者のセリフが多く、どこに伏線を張っているのだろうと、一語一句見逃さないようにと、必死に字幕を追う。画面の隅々まで、なにかヒントが出てくるだろうと凝視したりして疲れる映画でもある。凝った脚本とセリフのややこしさがあってか。また、4者の生き様の経緯や背景のなる説明も不足がちで、説得力に欠けるのか、感情移入できない部分があるのは私だけか。ワールドカップや全仏テニスのTV観戦で睡眠不足の私は不覚にも、途中で睡たくなった。
しかし、人質たちの描き方も含め、全体の描き方にユーモアが効いていて、とても味わい深い。いくつも斬新な犯行の手口が見られるが、その動機、必要性、理由は最後まで明らかにされない。観客は、犯人の真意を多方面から推理し、かなりのところまで解き明かしながら、それでもラストは肩の力が適度に抜けたものである。そのため感動とかは無縁の映画だ。
犯人、刑事、弁護士、三人が最終的にはいい思いをする。銀行の会長の過去も暴かれず、犯人は完全犯罪成功、刑事は出世、弁護士も利益を受ける。バカをみたのは人質たち?人質や関係者の中にも犯人グループのメンバーがいる。みんな丸く収まって、確かに完全犯罪といえばそうなのだけれども」たちにトコトン利用される人質たちもまた「インサイド・マン(中にいる人・銀行強盗)」と化してしまうのがミソでもある。アクション映画というより心理サスペンスドラマのようだ。監督のスパイク・リーは、長年人種問題を扱ってきた社会派監督だが、彼のようなアクの強い監督が娯楽映画を撮ると、一風変わった?ものになる。得意の人種ネタによる笑いのセンスも抜群で、ニューヨークという多人種が集まる町ならではの展開も、心憎いものがある。
■ 【ブロークン・フラワーズ】★★★☆ その日幸せな気持ちになれると思う素敵な映画 |
Date: 2006-06-06 (Tue) |
解説: 19歳になる息子の存在を知った中年男が、まだ見ぬ息子とその母親を探し当てるための旅に出るロード・ムービー。6年ぶりの長編作品をとる監督は『コーヒー&シガレッツ』のジム・ジャームッシュ。主人公のダメ男を『ロスト・イン・トランスレーション』のビル・マーレイが哀愁とちゃめっ気たっぷりに好演する。淡々とした中にも、とぼけたユーモアと切なさを盛り込んだ絶妙な語り口がポイント。カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した話題作とのこと。
ジム・ジャームッシュ、ロード・ムービー。息子の存在を知った独身の中年男が、真相を確かめようと元恋人たちを訪ねる姿をユーモラスにつづる。
ストーリー:事業で成功し、独身貴族を気取った生活を送る中年男ドン(ビル・マーレイ)。そんな彼に、19歳になる息子の存在を知らせる差出人不明の手紙が届く。気のいい隣人(ジェフリー・ライト)の薦めもあって、暇をもてあましていることもあり、気の進まぬままに、嘘か本当か真相を確かめるため、彼は交際していた女性たちを訪ねる旅に出る。
シネマトーク:20年前、ある映画を観た。「ニューヨークに住む若者とハンガリーからやって来たいとこの少女との触れ合い」を描いた『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(84)や「獄中で出会った3人の男たちの触れ合い」を描く『ダウン・バイ・ロー』(86)というジム・ジャームッシュ監督の映画だ。この作品は、私が仕事で悩んでいた頃、「人生、深刻に考えなくてもいい。気楽にいけば‥‥‥」と癒してくれたのが。「懐かしい‥‥‥」と思って日比谷のシネシャンテに行く。劇場は日曜日というのに、がらがらだ。お陰でゆっくり観られた。
20年前より、監督も歳を取った分、「味」が出ている。日本の名監督溝口監督に似ている手法と言われる。長撮りのようなもので映像に厚みを持たせると同じに印象深いカットになっていると。やっぱり『人』を描かせたらうまいですね。ビル・マーレイの醸しだす人間くささも良かったし、ダメな親父も熱演。とくに別れた昔の彼女連を、それぞれ訪ねるところが面白い。自分も主人公になったような気分で、訪問先のドアを「ノックする」。スリリングが味わえる。シャロン・ストーンやジェシカ・ラング、フランセス・コンロイ、ティルダ・スウィントンの女優がそれぞれわけありで、20年後の姿に会うのが面白い。彼女(フランセス・コンロイ)とその夫に夕食をご馳走になっていても、どこか空々しいのも、次の彼女(シャロン・ストーン)が妖艶で、また娘もすっ裸で、でてくるなどのお楽しみもある。シャロン・ストーンと一晩いい思いをさせてもらえるのも、主人公は感動しないところなど滑稽だ。わたしならうまくやれたと素直に喜ぶが。どうも仕掛けたのは、気のいい隣人(ジェフリー・ライト)のようだ。結局、息子の手がかりは掴めず帰宅。ハンバーガー屋で、それらしい家出青年に声を掛け、「私がお父さん」と突然言ってしまう。多分、旅にでて、今までの気楽な暮らしがいいと思ってきたが、家族のないのは寂しいものだと気づく。青年は気が触れたのかと、ハンバーガーのお礼だけ言って、びっくりして逃げて行く。で映画は終わる。言えるのは、この映画を見ればその日幸せな気持ちになれると思う素敵な映画だ。
■ 【明日の記憶】★★★★ |
Date: 2006-05-24 (Wed) |
【明日の記憶】★★★★ 渡辺の久しぶりの日本映画にかける意気込みを観る
解説:第18回山本周五郎賞を受賞した荻原浩の同名長編を原作に、『トリック』や『ケイゾク』の堤幸彦監督が映画化した人間ドラマ。若年性アルツハイマー病に侵された男と、ともに喪失を乗り越えようとする妻の夫婦の情愛をたおやかに描く。互いを受け止め合い、痛みを共有する熟年夫婦を渡辺謙と樋口可南子が好演。人を愛することの根源的な意味を問いかける重厚なテーマを、ソフトな語り口でつづる堤監督の演出手腕が冴え渡る感動作とのこと。
ストーリー:広告代理店に勤める佐伯(渡辺謙)は50歳を迎え、仕事は順調、妻枝美子(樋口可南子)のと家庭も円満、さらには一人娘が結婚間近と喜びに満ちていた。ところがある日突然、不幸に襲われる。若年性アルツハイマー病を患った彼の記憶は少しずつ失われてゆく。
シネマトーク:実は、『ダ・ヴィンチ・コード』を観て、映画のはしごにエイドリアン・ブロディ、キーナ・ナイレイトの『ジャケット』どちらを観るか迷った。待ち時間が短いこの映画に。この映画を観て良かった。重いテーマの割りには、原題から想像するお涙頂戴の安っぽい難病もの泣かせの映画ではない。感動はもちろんのことコミカルな面をとりいれ、テンポよく仕上がっている。テレビ出身の堤監督だからか。最後の陶芸で知り合った山奥での衝撃のシーン、吊り橋を遠望してフェイドアウトする色々終わり方も上手いなと感心した。音楽も、病気が進行する、重たいシーンになるはずのところを、重たさせない選曲だ。キャスチングが優れ、ベテランに若手が引っ張られて熱演。頑固でエッチな陶芸師大滝秀治の貫禄、大手企業のクライアントの部長役の香川照之の味、医者役のミッチーの熱演、無論主役二人の演技も素晴らしい。特に樋口可南子がいい。かつてデビューの頃の『戒厳令の夜』や『まんじ』『ベッドタイムアイズ』など脱ぎっぷりのいい女優であり、大根だった。が、糸井重里と結婚してから、『四万十川』『阿弥陀堂だより』あたりからぐんぐんよくなってきた。この映画でもさりげない演技だが存在感を示す。松坂慶子のように大袈裟でいかにも「演技してます」といったことがないので肩が凝らずに観られる。空気みたいにフーとしているが、なくてはならぬ酸素のような存在である。
しかし、なんと言っても渡辺 謙だ。意外だが初めての主演映画とか。『ラスト・サムライ』でアカデミー助演男優賞ノミネートされ、『バットマン・ビギンズ』で悪玉を気持ちよく演じ、『SAYURI』でチャン・ツイイーに惚れられる男冥利に尽きる役どころと、快進撃である。クリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙(2006)』に主演するところまでのぼりつめた。いまやハリウッド作品で活躍の目覚しい。その謙さんが『SAYURI』の撮影中に出会った原作にほれ込んで、自ら映画化の企画を進め、エグゼクティブ・プロデューサーも務めている。同郷(新潟県)の樋口可南子に出演を頼み、堤に監督をと…。
そんな渡辺は、久しぶりの日本映画にかける意気込みと作品への熱い思いを次のとおり語った。「衝動とか、そんなに燃えたぎるものではなかったのですが、ただ、本を読んだ後、心の中がすがすがしく温かくなれたんですよ。まあ後から考えると、ちょうどその年に『エターナル・サンシャイン』とか、『きみに読む物語』という作品があって、両方とも、記憶の喪失感をモチーフにして人生を回顧するという作品でした。それらが自分の心に印象的に残っていたことも関係あるかもしれませんが、とにかくその時は映像表現に携わっている人間として、今、観客に届けたい作品はこれだ。だから、演じたいという思いがわき上がってきました」と。
同様に若い妻がアルツハイマー病に侵される韓国映画の『私の頭の中の消しゴム』は、きれいに描かれすぎだが、この映画は、夫婦の絆を中心に描かれていて、特に渡辺 謙の迫力ある演技に、こみあげてくる涙をおさえられない。日本映画も捨てたもんじゃない。人間のの弱さと強さ、家族の大切さを感じてもらいたい。
■ 【ダ・ヴィンチ・コード】★★★★☆ |
Date: 2006-05-23 (Tue) |
【ダ・ヴィンチ・コード】★★★★☆ 娼婦マグダラのマリアがイエスの妻だった?
解 説:世界中でベストセラーになっているダン・ブラウンの同名小説を映画化した超大作ミステリー。レオナルド・ダ・ヴィンチの名画に秘められた謎を、アカデミー俳優のトム・ハンクス演じるロバート・ラングドンが解き明かしていく。その他のキャストに『アメリ』のオドレイ・トトゥや『レオン』のジャン・レノら演技派スターも名を連ねる。『ビューティフル・マインド』でのアカデミー賞監督のロン・ハワード。監督が最初に主人公役にオファーしたのは、『アポロ13』で一緒に仕事をしたビル・パクストンだった。しかしスケジュールが合わず、監督は次々に候補を考案。ラッセル・クロウ、ヒュー・ジャックマン、レイフ・ファインズ、ジョージ・クルーニーらが候補になったが、最終的にトム・ハンクスに決まったとのこと。
ストーリー:パリのルーヴル美術館で館長ジャック・ソニエールが殺害され、彼は死の間際に自らの体を使って不可解な暗号を残していた。その暗号の中に、ハーヴァード大学教授ロバート・ラングドン(トム・ハンクス)の名前を見つけたフランス司法警察のファーシュ警部(ジャン・レノ)は、ラングドンに捜査への協力を求めるという口実で彼を現場に連行する。が、館長の孫娘で暗号解読官ソフィー(オドレイ・トトゥ)は、祖父の死の真相を捜査するため、ラングドンを連れてルーヴル美術館から逃亡。2人は警察の追跡を逃れながら、独自にこの事件を捜査していく。そして、その過程で何世紀にも渡ってカトリック教会により隠され続けていた、キリスト教世界最大の秘密が暴かれていく。
シネマトーク:例によってこの映画のポイントを3つ挙げたい。その1つは、”原作の発想”。以前ご紹介した『真珠の耳飾りの少女』は、フェルメールの世界的に有名な絵画「青いターバンの少女」を題材に、その絵が描かれた背景を物語した。さもありなん、と思わせる話であった。演出のうまさと俳優の良さで優れた作品になった。この映画も、レオナルド・ダ・ヴィンチの名画「最後の晩餐」を題材に、その絵に隠した秘密があるという発想である。しかし、この「娼婦マグダラのマリアがイエスキリストの妻だった」という仮説を唱える。この謎をめぐり、話しが展開するのが、なかなかスリリングで面白い。物語が暴いていくのは、キリスト教の概念を覆す、聖杯の意味するものについて、キリストその人について、本作はこれを「事実である」として描いたので、世界中で賛否両論を呼んだ。最後のクレジットでやっと「この映画は、フィクションである…」とでるが。
その2つは、”謎めいた登場人物の面白さ”。殺人の嫌疑を懸けられながらも、謎説きをしていく大学教授ロバート・ラングドンのトム・ハンクスは期待を裏切らない。どんな役でもこなしてしまう。目の動きなどやっぱり上手い。館長の孫娘で暗号解読官ソフィーのオドレイ・トトゥも『アメリ』のメルヘン風の女の子からイメチェンして演じ、最初堅い表情で演じているがドラマの核心に進むにつれ存在感を増す。ハイヒールであれだけ逃げられるの??聖杯研究者のイアン・マッケラムも『ロード・オブザ・リング゙』同様に、堂々の風情で興味を繋ぐ役割をもつ。ジャン・レノもはまり役で、謎めいたフランス司法警察のファーシュ警部役になっている。『フリーダ』でフリーダの夫をやり映画賞を総なめしたり、『スパイダーマン2』のドクター・オクトパス役でも強烈な印象を残しているアルフレッド・モリナのカトリックの保守派の司教役。これも謎めている。館長を殺した修行僧もフードをかぶり銀髪で不気味な感じがでている。これらの登場人物が物語の核になる。
その3つは、” ルーヴル美術館”。物語の発端となる事件の舞台だ。そこで、本作は実際にルーヴル美術館での撮影を敢行。ただし、1週間、しかも夜間と休館日の火曜日だけに限られるという時間制限付き。ハワード監督は時間が足りないことを痛感しつつも、美術品の前で足を止めずにはいられなかったそうだ。また、床に血を流すことと、「モナ・リザ」に暗号を記すことは拒否されたので、残念ながら映画に登場する「モナ・リザ」は本物ではない。それでも普通は見ることのできない、世界最高の美術館の夜間の光景がスクリーンで堪能できるのは画期的。また、ストミンスター寺院が撮影を拒否したため、代わりにリンカーン大聖堂で撮影が行われたが、大聖堂の外では撮影に反対する修道女のデモが行われ、12時間もの間、徹夜で祈りを捧げていたそうだ。そもそもリンカーン大聖堂側でも撮影を許可するかどうか、司祭たちの間で議論になったが、撮影による宣伝効果や利益を鑑みて撮影を許可したのだそう。
原 作:2003年の刊行以来、44カ国語に翻訳されて、全世界で4900万部を超える世界的ベストセラー。日本での発売には裏話があり、アメリカ版がベストセラーになったので、ニューヨークの紀伊國屋書店が翻訳本を先行発売。これも大売れしてYahoo!ニュースでとりあげられた。これが日本発売前にクチコミで広がり、日本で2004年5月に刊行されたときには1万5000部だったが、すぐさまベストセラーに。それに拍車をかけたのがTVの特別番組と展覧会。2005年3月には「超時空ミステリー!世紀の天才ダ・ヴィンチ 最大の謎と秘密の暗号〜『ダ・ヴィンチ・コード』の真実に迫る!〜」「ビートたけしの歴史的大発見 名画モナ・リザはもう一枚あった!」が放送され、9月からは森アーツセンターギャラリーで「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」が開催。さらに数々の謎解き本も出版されて、原作の単行本・文庫の累計は500万部を突破。
ここまで話題になると、原作ファンはもちろん、原作は読んでいないがタイトルは知っていて興味があるという人も映画に動員できるので、大ヒット間違いなしだ。また、原作がベストセラーの場合は映画も大ヒットして続編も……というかたちでシリーズ化され、ヒットを飛ばすものが多い。近年の例を見ると、まず『ハリー・ポッターと賢者の石』から始まったこのシリーズは、現在第4作『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』まですべてが興行収入100億円を超えるヒット。『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』も続編の製作が決定している。ファンタジー以外でも、人気ラブコメシリーズを映画化した『ブリジット・ジョーンズの日記』とその続編『ブリジット・ジョーンズの日記きれそうなわたしの12か月』、アカデミー賞を受賞したサスペンス『羊たちの沈黙』と、そのシリーズである『ハンニバル』『レッド・ドラゴン』など、全て原作がベストセラー小説である。『ダ・ヴィンチ・コード』の原作も実はシリーズ作で、本書は同じ主人公ロバート・ラングドンが活躍するシリーズ第2作。第1作「天使と悪魔」は刊行中、第3作「ソロモンの鍵(仮題)」も刊行が待たれており、映画がシリーズ化される可能性は大いにありうる話だ。
■ 【ナイロビの蜂】★★★☆ |
Date: 2006-05-19 (Fri) |
【ナイロビの蜂】★★★☆
巨大組織に立ち向かい不慮の死を遂げた活動家の妻役をレイチェル・ワイズが熱演。 レイフ・ファインズがすごくいい。『イングリッシュ・ペイシェント』以来の力演。
解 説:02年アカデミー外国語作品賞を獲ったブラジル映画『シティ・オブ・ゴッド』(注1)のフェルナンド・メイレレス監督が、冒険小説の巨匠ジョン・ル・カレの原作を映画化。妻の死に世界的な陰謀の存在を嗅ぎ取った主人公の心の旅路を、ナイロビの雄大な自然を背景に映し出す。命を賭けて謎に迫る夫を『イングリッシュ・ペイシェント』のレイフ・ファインズ、不慮の死を遂げる若妻を『コンスタンティン』のレイチェル・ワイズが熱演する。愛の強さと尊さを壮大なスケールで描き出す感動作とのこと。
ストーリー:英国外務省の外交官ジャスティン(レイフ・ファインズ)の妻テッサ(レイチェル・ワイズ)が殺された。彼女は大手製薬会社がアフリカの貧しい人々を使って新薬の実験をしていることを探っていた。彼女の死の真相を探り始めたジャスティンは事件の裏に潜む世界的陰謀を知ることに‥‥。
シネマトーク:まず、前回ご紹介した『ホテル・ルワンダ』(注2)を思い出す。どちらも先進国がアフリカを食い物にしているからおこる物語だ。『ホテル・ルワンダ』のように大きな悲劇を扱っているわけではないが、アフリカの問題を知るにはこの映画のほうが的を射ているようだ。また、『シリアナ』)(注3)も先進国アメリカが中東に介入する、という点ではよく似ている。映画づくりの1つは、小説等と同様に製作者が世界に社会に主張したいメッセージを発することにある。外国映画同様に日本映画も黒澤明、今村昌平、今村正などもそうだった。
陰謀渦巻く社会派サスペンスで巨大組織に立ち向かい不慮の死を遂げた活動家の妻役をレイチェル・ワイズが熱演。06年アカデミー助演女優賞を受賞したのは記憶に新しい。実際にバスシーンでも、妊娠したまるまるしたお腹を堂々とさらけ出した女優根性は見上げたものだ。恐らくそのとき妊娠?していて、撮影していなのか?キャサリン・ゼタ・ジョーンズも『シカゴ』ではマイケル・ダグラスの子を宿して激しいダンスシーンを演じ、03年アカデミー助演女優賞をさらった。ハリウッドに「妊娠女優受賞説」ができるか。
事なかれ主義の夫役レイフ・ファインズがすごくいい。『イングリッシュ・ペイシェント』以来の力演だ。彼の心によりそって進む物語にぐいぐい引き込まれて、ラストまで心ごともってかれた。さらに、妻の死を知ってから妻の存在の大きさに気づく夫だが結局‥‥。外交官なら、英国に戻って製薬会社も告発をするなど、もっと選択肢があったと思うが、それが究極の愛なのだろうか。発展途上の人達を利用し、大手製薬会社の利益追求には手段は選ばない格差社会の現実が何とも切ないです。内容が複雑で重たい映画。しかし、アフリカの自然は広大で素晴らしくドキュメンタリーをみているようである。アフリカの子供たちも輝いている。社会派ネタと夫婦愛、そして美しいアフリカの風景を楽しめるお勧めの映画である。
(注1) 02年アカデミー外国語作品賞を獲ったブラジル映画。 ブラジルのスラム街におけるギャングの盛衰と、その中でジャーナリストになることを夢見る少年の話。
(注2) アフリカのルワンダで内紛による大量虐殺の危機から人々を救った、実在のホテルマンの勇気と良心を描いた
(注3) アメリカ当局とアラブの王族、イスラム過激派テロリストの石油をめぐる黒い関係を描いた問題作。ジョージ・クルーニーがアカデミー助演男優賞。
■ 【寝ずの番】★★★ |
Date: 2006-04-21 (Fri) |
【寝ずの番】★★★ 津川らしいしゃれた題材だが消化不良否めずやや期待はずれに
≪ストーリー≫100年に1人といわれた稀代の噺家で上方落語界の重鎮である笑満亭橋鶴(長門裕之)は、臨終の時を迎えようとしていた。弟子たちが見守る中、一番弟子の橋次(笹野高史)が死にゆく師匠に最期の願いを聞くが、呆気に取られる珍妙な答えが返ってきた。驚きつつも橋次は、弟子の橋太(中井貴一)に指示を出すが……。
≪解説≫俳優の津川雅彦が、偉大なる映画人である祖父のマキノ省三、叔父のマキノ雅弘からマキノ性を襲名し、マキノ家3代目監督マキノ雅彦として初メガホンを取った意欲作。故・中島らもの人情喜劇を原作に、お通夜の席で寝ずの番をする故人ゆかりの人々の人間模様を、愛情に満ちた視線で紡ぎ出す。主演の中井貴一をはじめ、映画界(浅岡ルリ子)、落語界(三枝、鶴瓶)から豪華なキャストが集結。魅力あふれる登場人物たちによる、洒落と粋を追求した世界が心地よい逸品とのこと。
≪シネマトーク≫何よりも出演者達の役者としての厚みを感じる。落語家然としたとぼけた長門裕之の演技と一瞬の立姿、富司純子が垣間見せる艶っぽさ、中井貴一の三味線弾き語りの声の色っぽさ、木村佳乃の若いお色気…など。三人が相次いで亡くなった。そのたびの「寝ずの番」での死人の思いで話しが聞かせる。死人への残された人々の思いが笑いのなかに綴られ、暖かく心に残るといきたいが…。その発想は買えるし、細かいエピソードでところどころ笑えるが、結局、「放送禁止用語連発」というポイントだけが後味に残ったようだ。豪華キャスト友情出演陣が、ちょっぴりかわいそうになった。
前日睡眠不足であったわたしは7割ぐらい観たあたりで眠ってしまった。ともに偉大な監督を親族にもつ二人が俳優監督としてデビューした故伊丹十三監督の『お葬式』とつい比べてしまう。記念すべき伊丹十三監督デビュー作にして大ヒットを記録した傑作コメディだった。思えば凄い映画だったと。突然、妻の父がなくなったことで初めてお葬式を出すことになった一家の途方に暮れる様と、お葬式に集まった多彩な人々の生態をアイロニーを交えてユーモラスに描いた。俳優の夫婦である井上佗助と雨宮千鶴子は、二人でCF撮影中に千鶴子の父の訃報を聞く。さっそく家族で父のいた別荘へ向かった佗助だったが、お葬式を出すのは初めてとあって、何もかも勝手が分からないことばかりだった……。との展開で始まった。最初から最後まで、面白い展開にあっと云う間に映画が終わったほどだった。コメディと人間関係の機微を見事に描いた。マキノ監督にはきびしいが、もの(才能)が違うことがわかったことが明らかになったのは皮肉。津川雅彦らしいしゃれた題材だが消化不良否めずやや期待はずれだった。時間があればという感じである。
■ 『かもめ食堂』★★★★★ |
Date: 2006-04-19 (Wed) |
『かもめ食堂』★★★★★
《ストーリー》サチエ(小林聡美)はヘルシンキで“かもめ食堂”を始めたものの客はゼロ。ある日彼女は最初の客で日本かぶれの青年トンミ(ヤルッコ・ニエミ)にガッチャマンの歌詞を教えてくれと言われるが、出だししか思い出せない。彼女は偶然本屋でミドリ(片桐はいり)を見かけ……。
《解説》群ようこが本作のために書き下ろした小説を、『バーバー吉野』の34歳荻上直子監督が映画化した人間讃歌。凛としたたたずまいの中に優しさをのぞかせる食堂の店主役には、テレビドラマ「やっぱり猫が好き!」などで活躍する小林聡美(売れっ子脚本家三谷幸喜の奥さん)。共演は『過去のない男』のマルック・ペルトラや片桐はいり、『ALWAYS三丁目の奇跡』のもたいまさこ。この個性的な面々がフィンランドの首都ヘルシンキを舞台に、のんびりゆったりとした交流を繰り広げていく様子を見るだけで幸せな気分になれる。
《シネマトーク》3〜4年前、方面会の忘年会であった料亭のコンパニオンの奈良百花さん。聞くと女優志願とか。話しがあって彼女の出演する自主映画にも見に行った。その彼女が「面白い映画があります」と言って紹介したのが、なんと『バーバー吉野』だ。その話しはこうだ。—山間の小さな田舎町。男の子たちの髪形は、“バーバー吉野”のおばちゃん(もたいまさこ)が切る“吉野ガリ”に統一するのが慣わしだった。それを疑問に思う者は誰一人いなかったが、東京から茶髪の転校生がやって来たことで事態は一変する。町中の少年が同じ髪形をしている田舎町で起きる騒動と、少年たちのささやかな成長をユーモラスに綴る青春ドラマ…。初恋や性の目覚め、大人への反抗心など思春期を迎える少年たちの心情を繊細に描いたのは、これが長編デビューとなる荻上直子監督だった。スカラシップ作品として製作した本作は、当年のベルリン国際映画祭児童映画部門スペシャルメンション(特別作品)に選ばれた。口うるさいが親切な吉野のおばちゃん役を、個性派もたいまさこが好演している。「思春期の少年というやくたいもない存在にこれほど過大な幻想を抱く女性監督も珍しい。メルヘン的なユートピア感覚という点では『スタンド・バイ・ミー』よりもイヴ・ロベールの『わんぱく戦争』を彷彿させる味わいがある」と絶賛された。
これも数年前、奈良の28歳の女性が、奈良の田舎の暮しを淡々と描いて、突然、米アカデミー外国映画短編映画賞に輝いた『萌えのとき』を思い出す。これら若い女性の鮮やかな才能を見る思いだ。
本題に入る前にもう1つ。数年前、行きにくい恵比寿ガーデンにわざわざ行って見たフィンランド映画があった。アカデミー外国語映画賞を獲った作品だ。事故で記憶を無くした中年男が、心優しいホームレス風の集団に招かれて幸せに暮し始める。やがて記憶が戻ると金持ちの妻ある事業家だった。しかし、家を捨て仲間のいるボロやに戻るという話。なんだかよく似ている。それが、マルック・ペルトラが主演した『過去のない男』であった。その監督の経緯。出演者の因縁など映画を見る以外にも映画はいろいろ楽しめる。
紹介を始める。まず、やはりキャストがイイ。なぜかヘルシンキにおにぎりが売りの“かもめ食堂”をオープンさせたサチエ役の小林聡美がなんともいい。独特のオーラと存在感で、女性からも男性からも幅広く支持される彼女が、魅力を存分に見せている。優しさと凛とした強さを併せ持つ、身体は小さいけれど器の大きなサチエの姿は、本当に美しい。“かもめ食堂”の住人になるミドリに片桐はいり。圧倒的な存在感はココでも健在。そしてちょっと謎めいた女性マサコにもたいまさこ。正にピッタリ。3人の醸し出す空気は、自分も彼女たちの隣にいるような錯覚を起こさせる。日本で各々の人生を背負ってきた彼女たち。そんな重みをさりげなく感じさせつつ、ちょーどイイ距離感を保ちながら生きている。大人の女性たちの姿が心地よい。
話しはたわいもない食堂を営む物語だけだ。しかし、「あぁ、あの定食が食べたい!」「あの扉を押して、わたしも“かもめ食堂”に入りたい!!」。そんな気持ちにさせる温かで穏やかな作品だ。両親を相次いで亡くし、母親を亡くした時より、ぶくぶくに肥えた愛犬が死んだ時の方が涙の量が多かった、との語りから始まるのは、この主人公のユニークさを一言でイメージさせる、思わず「いいぞー」と拍手したくなる脚本だ。そのぶくぶくに肥えたかもめが好きで、ふらっとフィンランドのヘルシンキにオープンした「かもめ食堂」。お客さんはまだゼロだけど、店主のサチエさんは、今日も食器をピカピカに磨いている。この食器や食堂のイス・テーブルの資質が見るからにいいものを使っている。監督は「いいものを使っているが観客には必ず分かる」と言う。憎い限りだ。サチエさんはミドリさんに聞かれる。「ねー。もし、わたしが食堂を辞めて日本に帰るとサチコさんは寂しいと思います?」。(サチコ)「……」。「そう、寂しくないのか?そんな感じなの!!」。「ううん。もち寂しいわよ。しかし、それを決めて日本に帰ることを決めたミドリさんにも、事情があるとおもうの。だって人生はひとそれぞれだもの」と。ラストでも、「ミドリさんマサコさんの、いらっしゃいというの、ゆっくりすぎません」。(ミドリ)「マサコさんらしくていいじゃないですか」と。(マサコ)「そういうミドリさんのいらしゃいは、ちょっとぎこちないとおもいません」。(サチコ)「でも、ミドリさんらしくていいじゃないですか……」と。そうサチコは、ひとそれぞれの人生があるのだ。決して強要するものでないと。これが萩上監督のスピリットと見た。
やがて食堂が人々の笑顔でいっぱいになる…。日本から最も近いヨーロッパの国、フィンランドのヘルシンキで、それぞれに事情を抱えた人々の日常が緩やかに流れていく。
3作目も見事に仕上げた荻上監督。さらなる活躍に期待したい。あぁ、“かもめ食堂”に行きたい。
■ 第78回米アカデミー賞に絡んだ推薦映画 |
Date: 2006-04-14 (Fri) |
【第78回米アカデミー賞に絡んだ推薦映画】
今回の第78回米アカデミー作品賞は、本命といわれた『ブロークバック・マウンティン』が“同性愛”というテーマが協会委員から嫌われ、人種差別を扱った『クラッシュ」』になりました。その2作品と『クラッシュ』で好演し、主演男優賞にノミネートされた黒人俳優ドン・チードル主演の『ホテルルワンダ』の3作品を紹介したいと思います。
1.『ブロークバック・マウンティン』−
《ストーリー》
羊番の仕事でワイオミングの山にこもった2人の青年は、自分たちにも理解できないパッション(熱情)に突き動かされ、禁断の果実を味わってしまう。その味が忘れられず、2人は互いに結婚して子供をもうけても秘かに交流を続ける。だがその代償として、もうひとつのパッション(受難)が待ち受けていた……。
《シネマトーク》
「ブローク(破損)バック(背)」という名の山。つかのまの牧歌的生活は、2人にとっての「楽園」だったことに、失って初めて気づく痛み。武骨な西部の男を通して語られる普遍的なラブストーリー。主演男優賞候補のヒース・レジャーは『サハラに飛ぶ羽根』の将校役時と随分異質な役柄をしっとり?と演じる。同主演男優賞を獲った『カーポティ』のフィリップ・シーモアを見てないので比較できないが、「いつまでも、画面を見ていたくなる!!」母性本能を擽る俳優である。寡黙さに、人が好きになるのはどうしようもない感情。原罪を「背負った」人間の悲しみを実にさりげなく演じる。時代や土地柄などが許さず、思いを隠さなくてはいけない‥が切なすぎる程伝わってくる。二人のキスシーンなどちょっと私には感情移入できにくい面があるが‥。相手役のジェイク・ギンレイホールも助演男優賞にノミネートされた。
無骨なカウボーイの若者が、友情という一線を超えたとき、それは、家庭との、社会との軋轢を産み、ふたりで過ごしているとき以外は苦悩の毎日となる。アメリカではこれまで何千本というカウボーイ映画が製作されたが、実際に、西部開拓時代から、カウボーイたちの精神的な愛情というのは、数え切れないほどあったのだろうか。ふたりの男優の淡々とした語り口、おだやかに、また激しく燃え上がる愛情‥名作です。絶対にお見逃しなく。
2.『クラッシュ」』
《ストーリー》
クリスマス間近のロサンゼルス。黒人刑事のグラハム(ドン・チードル)は、相棒であり恋人でもあるスペイン系のリア(ジェニファー・エスポジト)と追突事故に巻き込まれる。彼は偶然事故現場近くで発見された黒人男性の死体に引き付けられる……。
《解説》
ロスのハイウェイで起きた交通事故をきっかけに、さまざまな人種、階層、職業の人々の人生が連鎖反応を起こすヒューマンドラマ。脚本に惚れ込んだサンドラ・ブロックや、ドン・チードル、マット・ディロンら豪華キャストが、運命に翻弄(ほんろう)される現代人の怒りや孤独や悲しみ、喜びや救いを見事に表現する。『ミリオンダラー・ベイビー』の製作と脚本でアカデミー賞にノミネートされたポール・ハギス監督による珠玉の名作。
《シネマトーク》
天使の街、ロサンゼルスを舞台に、わたしたちのさまざまな感情を丸裸にしてみせる傑作である。監督は『ミリオンダラー・ベイビー』で製作・脚本を務めたポール・ハギス。登場人物すべてが主役として機能する群像劇。異なる境遇、異なる階級の人々の物語が対等に描かれていく。断片的なエピソードを積み重ねながらすべてを収束し、これほどの人間洞察と人生の機微を盛り込んでしまう。物語が動く、自分とは違う環境にある人々との「クラッシュ」によって。衝突が感情を生み、対立も生む。しかし、衝突なしでは互いの距離を縮めることもできない。どの役柄にも引き込まれるが、刑事役のマット・ディロンとTVディレクター役のテレンス・ダッション・ハワード。この両名の演技には脱帽した。とくにマット・ディロン(助演男優賞受賞)演じる差別主義者の白人刑事の複雑さが傑出している。悪の心も善の心も持つ彼に、人は自らの姿を見るはずだ。差別や偏見など、わたしはしたことがないし、感じてもいない、などと言い切れる人はいない。人が他人と接するとき、必ずそこには差異が生じる。何度もクラッシュを重ねてこそ、互いを認め合うきっかけが生み出される。緻密に計算された素晴らしい脚本と、感情をあぶり出す演出に、魂を感じさせる演技。胸を打つ強烈なパワーは、いつまでも心に残る。音楽も黒人歌手が恐らく歌っているだろう。淡々とした語り調のメロディーはいつまでも心に響く。
3.『ホテルルワンダ』
《ストーリー》
94年、アフリカのルワンダ。部族間闘争が激しさを増す中、多民族フツ族の大統領機爆破を機に、少数民族ツチ族の虐殺に発展。各国の要人らが集まる高級4つ星ホテル“ミル・コリン”のフツ族の支配人は、ツチ族の妻ら家族をホテルに避難させようとした際に行きがかり上、親類・近所の人々もホテルに匿うことに。しかしどこから聞きつけたのか、続々と行き場のない人々が逃げ込んでくる。しかし頼みの綱の国連軍は、撤退を決定しー。
《解説》
アフリカのルワンダで内紛による大量虐殺の危機から人々を救った、実在のホテルマンの勇気と良心を描いた感動ドラマ。主演はスティーヴン・ソダーバーグ監督作品の常連、ドン・チードル。日本公開は危ぶまれていたが、若者によるインターネットでの署名運動が功を奏し、公開が実現した話題作。
《シネマトーク》
マウンテンゴリラの棲息地として名高いアフリカの小国ルワンダで、1994年、長年くすぶっていた民族対立(フツ族×ツチ族)の火種がついに爆発し、100万人(国民の10%)を超える犠牲者を出した大虐殺があった。横田めぐみさんの夫がDNA鑑定で韓国人であるというニュースが衝撃を呼んでいるが、このルワンダ大虐殺は、われわれ平和に暮らす日本では考えられない。
実話をもとに映画化した本作。かつて仲良くやっていたフツ族とツチ族を引き裂いたのは、植民地化するための欧米の策略であった。我先にと飛行機に乗り込む旅行者、己の無力を恥じながらも母国へ戻るジャーナリスト。そして大量虐殺を知りながら、撤退を決めた国連軍。激しい怒りと恥辱と後悔に、息も絶え絶えになってしまう。しかし我々先進国が見ぬフリをした事実をきちんと見据え、時すでに遅くとも、悔恨と反省を込めて見ずにはおれない衝撃の傑作だ。
目を背けたくなるような大虐殺の惨状を直接突きつけるわけでなく、抑制の利いた演出に徹しているからこそ、この事実を真摯に受け止めたくなる。黒い肌の虐殺者たちの目を異常に光らせ、あるいは累々と横たわる死体の山をシュールレアリスティックに見せつつ、主人公が味わう心理的な恐怖を少しずつ少しずつ積み上げていく話術が素晴らしい。
絶望の淵にいる苛酷な宿命を阿鼻叫喚もなしで全身で体現する主人公役ドン・チードルなしに、この感動は生まれなかっただろう!平和ボケした自分、自分たちの税金が使われている国際援助の援助先がどんな政情なのかも知らずにいる自分、同じように感じている日本人は多いはず。何が起きているかをまず知り、人間としての良心と勇気を揺さぶり起こし、行動に駆り立ててくれるような、そんな映画を待ち望んでいたのだと気付いた。この主人公というのは、絶体絶命な状況に陥るたびに超人的な機転を働かせる絶対的な”善”として描かれており、人間臭さにはやや欠けているので、『シンドラーのリスト』のような深い感動作とまではいかないが、充分に優れた作品であることは間違いない。
■ 最近の映画ベスト5 |
Date: 2006-02-03 (Fri) |
1位【単騎、千里を走る】 ★★★★★ 文句なし。本年NO1作品か!
2位【スタンドアップ】 ★★★★ シャーリズ・セロン“迫真”の演技
3位【プライドと偏見】 ★★★☆ 絵画のような田園風景に恋物語が格調高く、
4位【オリバー・ツイスト】★★★☆ 豪華セットで19世紀ロンドンを見事に再現
5位【フライトプラン】 ★★★☆ 心理サスペンス劇としては上々の1本
1位【単騎、千里を走る】 ★★★★★
ポイント㈰ なんといっても74歳の健さんの“寡黙”な演技に“大感動”
ポイント㈪ 『初恋のきた道』『あの子探して』を彷彿させる感動ドラマ
ポイント㈫ 某俳優を監督が息子役に“声”出演依頼の粋な計らい(観てのお楽しみ)
中国の巨匠チャン・イーモウ監督と、監督が尊敬して止まない高倉健とが実現した映画。1人の日本人が異国の地で体験する心の触れ合いを通して、人と人とのきずなの大切さを再認識していく物語。単身で中国の撮影隊に加わった高倉健の現地の人々と素晴らしい交流が作品全体ににじむ。中国の人と言葉が通じないことで生じるやりとりがなんともコミカルで笑いを誘う。 中国でも記録的大ヒット。昨年から約2000スクリーンで上映、正月休みの大みそか〜1月3日の4日間で800万元(約1億2000万円)の興行収入を記録。近年の中国芸術映画では最高の数字。
2位【スタンドアップ】★★★★
ポイント㈰ シャーリズ・セロンの独断場。美人で演技がうまい
ポイント㈪ 『クジラ島の少女』の女性監督ニキ・カーロの冴えた演出
ポイント㈫ 最後の裁判シーンは号泣必須
女性鉱山労働者になったシングルマザーが、男性社会の中で耐え難いセクシャル・ハラスメントを受け、立ち上がるまでを実話に基づいて描いた感動作。『モンスター』でブクブクに肥え凄いメーキャップを施し、連続殺人犯を熱演しアカデミー賞をとったシャーリズ・セロンが迫真の演技を見せる、昨年に続き、第78回アカデミー主演女優賞にノミネートさる。職場での「セクハラ」をめぐってアメリカで初めて起きた集団訴訟をベースにした物語。鉱山という「男社会」でのほとんどア虐待のようなハラスメントと、それに敢然と立ち向かう女性の姿が描かれる。
3位【プライドと偏見】★★★☆
ポイント㈰ エリザベスをはつらつと演じたキーラ・ナイトレイ
ポイント㈪ オール・ロケによる絵画のような田園風景
ポイント㈫ デンチ、ブレッシン、サザーランド豪華な助演陣
18 世紀末、イギリスの上流社会。女性に財産相続権がなかったこの時代、“結婚”は女性にとって人生のすべてだった。そんな時代に、格式の中に自由を求め、噂の中に真実を見出そうとする2人の心の道のりを追った愛の秀作。 原作はイギリス女流文学の最高峰ジェーン・オースティン。“結婚”という時を超えた憧れをモチーフに、5 人姉妹と男たちの恋物語が、格調高く、いきいきと現代のスクリーンに映し出される。主人公エリザベスをはつらつと演じたのは、『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』『キング・アーサー』で一躍、人気を集めたキーラ・ナイトレイ。強い自我を感じさせる演技は、彼女自身の光る個性でもある。第78回アカデミー主演女優賞にノミネートされた。娘たちの結婚に躍起になるベネット家の母親役には、『秘密と嘘』でカンヌ映画祭の主演女優賞を受賞したブレンダ・ブレッシン。娘たちの真の幸せを願う父親には、一流の性格俳優として国際的に活躍するドナルド・サザーランド。『恋におちたシェイクスピア』でアカデミー賞助演女優賞を受賞したジュディ・デンチが、キャサリン夫人役で 18 世紀末のイギリス上流階級の女性像をみごとに描き出し、作品全体を引き締めている。
4位【オリバー・ツイスト】★★★☆
ポイント㈰ オリバー・ツイスト役のバーニー・クラークの澄んだ無垢な“瞳”
ポイント㈪ 窃盗団の元締め老人役のベン・キングズレーの怪演
ポイント㈫ 19世紀のロンドンの物語を見事に再現
『戦場のピアニスト』の巨匠、ロマン・ポランスキーがチャールズ・ディケンズの名作を映画化。戦争の中で運命をもて遊ばれていく健気な少年の感動物語。主演のオリバー・ツイスト役にはオーディションで選ばれた12歳のバーニー・クラーク。サーの称号を持つ名優ベン・キングズレーの怪演も見逃せない。独特の色づかいで描かれた。「戦場のピアニスト」で、その時代の空気を見事に再現した、監督ロマン・ポランスキー以下主要スタッフらの手により、今度は19世紀のロンドンが眼前に広がる。その映像が素晴らしく、一瞬にして時空を飛び越えさせられる。あまりに酷い運命がオリバーに襲いかかる様が、これでもか、というほど執拗にネチネチと描かれる。それでもじっと耐えるオリバーの無垢でひたむきな表情に、見る者はどうにか助けてあげたくて焦燥し、オリバーを陥れる出来事や人物を怒りに駆られてじっと見つめることになる。それだけにラスト、爽快感と幸福感の大きな波がやってくる。オリバーを演じるバーニー・クラークも素晴らしいが、窃盗団の元締め老人を演じるベン・キングズレーは、言われないと誰なのかわからないほどの怪演をまたも見せている。
5位【フライトプラン】★★★☆
ポイント㈰ ジョディ・フォスターの鬼気迫る演技は必見
ポイント㈪ 高度一万メートルの密室での恐怖のサスペンス・アクション
ポイント㈫ 飛行機内を再現した見事な巨大セット
映画主演は3年ぶりとなるオスカー女優ジョディ・フォスターが、突然娘を奪われた母親にふんし正体不明の敵に立ち向かう。あまりに臨場感のあるリアルな設定に、客室乗務員協会(AFA)が映画のボイコットを呼びかけたほどとか。大空を飛行中のジャンボ旅客機からひとりの少女が消失するが、母親以外は誰ひとりとして少女の姿を記憶していない。何ひとつ手がかりのない絶望的な状況の下、主人公の捜索劇が展開していく。ジョディ扮する母親カイルは夫を突然亡くした衝撃が覚めやらず、精神不安定な状態というキャラクター設定。ゆえにいつもの“颯爽とした”ジョディではなく、我が子を愛する母親としての執念が、狂気すれすれの危うさをはらんで表出するヒロイン像になっている。そんな主人公の苦闘をいっそうスリリングに盛り上げるのは、飛行機内を再現した見事な巨大セット。800人もの乗客を収容するらせん階段付き二階建てキャビンをカメラが縦横無尽に移動し、ふだん利用者が立ち入ることのできない格納庫などをくまなく見せていく。そのリアリティは、さすがはハリウッド映画ならでは。 “空飛ぶ密室”での事件勃発までの流れは秀逸で、それを受けたジョディの迫真の演技は面目躍如。極限下で闘うヒロインの心理サスペンス劇としては上々の1本だ。
■ 平成17年度KOTANIのシネマトベスト10 |
Date: 2005-12-30 (Fri) |
今年もKOTANIのシネマトークを愛読いただきありがとうございました。
昨年の64本におよばなかった52本でした。でも話題作はほぼ観ているので
ベスト10の作成価値はあるかと。べストはあくまで個人の好みであることをご
承知おきください。ではよろしくお願いします。
新春は健さんの『単騎、千里を走る』、スピルバーグの『ミュンヘン』、ロマン・
ポランスキーの『オリバー・ツイスト』などの話題作からジュディ・フォスターのサス
ペンス『フライトプラン』、ジョージ・クルーニ−、マット・デイモン競演『シリアナ』、
『ナルニア物語』などのわくわくするムービーなど来年もいい映画が登場します。
今年同様にいい作品に出会うことを楽しみにしたいと思います。
小谷洋一
本年度ベスト1はイーストウッド『ミリオンダラーベイビー』2位はイギリス映画『べラ・ドレイク』3位は芸者を描いた映画『SAYURI』“丁寧な演出”と“精緻な画像美”
一昨年70本、昨年64本のに本年は52本とは失速。昨年同様、5分野で分析。25点×4=100点満点で、㈰脚本−10点、㈪俳優−4点、㈫演出−3点、㈬感動度−5点、㈭娯楽性(エンターテイメント)−3点とした。
本年度ベスト1位は、昨年の『ミスティックリバー』(92点)に続くイーストウッド作品の『ミリオンダラーベイビー』。ボクシング映画と思いきや尊厳死テーマの“社会派ドラマ”。”丁寧な人物描写”と“イーストウッドの暖かさが伝わる映像“はいまや名匠監督の名を欲しいままに。2位はマイク・リー監督の英゙映画『べラ・ドレイク』。(92点)ドレイク役のイメルダ・スタントンが素晴らしい。本当の下町のおばサンかなと思ったほどの変身ぶり。家族を思い、愛し、隣人に慈しみを与える平凡な主婦の悲劇。ラストの「刑期を終えて待とう…」と。家族が家族を救うというメッセージが好き。3位は日本の芸者を描いたアジアの演技陣結集のハリウッド映画『SAYURI』(88点)。主役の中国女優チャン・ツィイー、コン・リーが日本芸者を演じる話題性。“フジヤマ・ゲイシャ”と揶揄された日本を正しく描いたロン・ハワードに感謝する。渡辺 謙、桃井かおりが頑張った。
4位は盲目の歌手レイ・チャールズの生涯を描いた『RAYレイ』(88点)。見事アカデミー主演男優賞を獲ったジェイミー・フォックスの圧倒的な演技と演奏の映像が今も心に残る。5位はこれも実話の北欧映画の感動作『海を飛ぶ夢』(84点)。尊厳死を求めて闘う姿を通し、“生と死”を見つめる。むずかしくなく、まじめに美しくユーモラスに描いた。自らの死をビデオ撮りさせるラストは何とも言えない。
6位は『アバウト・シュミット』のアレクサンダー・ペイン監督が描く『サイドウエイ』(84点)。中高年4人の男女が織り成す人生と恋とワインをめぐるロード・ムービー。主人公のワインを愛するダメ男ポール・ジアマッティのおとぼけ演技とアカデミー助演女優賞のバージニア・マセドンの優しく包む熟女ぶりがいい。
7位は富豪ハワード・ヒューズの半生を描く伝記映画『アビエイター』(84点)。ハワードが愛した女性をケイト・ブランシェットとケイト・ベッキンセールが演じるのは豪華であった。次第に心を病んでいくハワード・ヒューズを演じるディカプリオの迫真の演技はアカデミー賞ものである。8位は、仏映画の『ふたりの5つの分かれ路』(84点)。夫婦の“別れ”から“出会い”までの5つの季節をさかのぼりながら、2人の間に起きた真実に迫る愛のミステリー。奇才フランソワ・オゾン監督らしい。9位は、『ラベンダーの咲く庭で』(84点)。ジュディ・デンチ、マギー・スミスらアカデミー女優の豪華共演作。ヴァイオリンの甘い調べにのって繰り広げられる大人のためのおとぎ話だった。10位は韓国映画『四月の雪』(84点)。妻への疑惑と新たな愛の存在に心かき乱されているペ・ヨンジュンの演技に、観る者の心もかき乱される。『ラブストーリー』のソン・イェジンが徐々に惹かれる過程がいい。ホ・ジノ監督は『八月のクリスマス』同様に微妙な感情をスクリーンに映し出す演出がいい。次点は『ボーン・スプレマシー』(80点)ボーンの考え抜かれた行動と必要最小限の動きで敵を倒すシーンは小気味がいい。このままテンションさえ落とさなければ、アクション映画史に残る三部作になるかも。
【わがベスト10を眺めて】
選んだ作品は、『ミリオンダラー・ベイビー』や『ヴェラ・ドレイク』といった“質の高さ“と”“濃密な映像“の作品が多い。邦画は紙面と本数が限られて掲載できないのが残念。『三丁目の夕日』『星になった少年』『亡国のイ−ジス』が印象に残る。映画はわたしに、人生の楽しさ、生きる勇気、喜びを与えて呉れる。そして映画の友も与えてくれている。
■ 『キング・コング』 |
Date: 2005-12-22 (Thu) |
【キング・コング】★★★★(★−20点)『ロード・オブ・ザ・リング』を凌ぐド迫力映像は、絶対大スクリーンで堪能。真に正月映画にぴったり。
解説: 1933年に製作され、映画史に残る伝説的作品となった『キング・コング』を、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのピーター・ジャクソン監督が現代版にリメイクしたアクション・アドベンチャー超大作。監督が、自身の原点と言ってはばからない。主演は『21グラム』のナオミ・ワッツと『戦場のピアニスト』のエイドリアン・ブロディそして『スクール・オブ・ロック』。のジャック・ブラック。特に、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでCGキャラクターの「ゴラム」を演じたアンディー・サーキス扮する「キング・コング」の名演?ジャクソン監督は、「オリジナルの『キング・コング』(1933)を観たのは9歳のころ。それで映画に目覚めて、12歳になるころには、将来映画監督になることを決意し、自分の『キング・コング』を作ろうと思った」と語ったという。『ロード・オブ・ザ・リング』を凌ぐド迫力映像は、絶対大スクリーンで堪能できる真に正月映画にぴったり。
ストーリー: 舞台は大恐慌時代の米国。冒険映画を撮影するために幻の孤島“髑髏島(スカルアイランド)”にやってきた監督のカール(ジャック・ブラック)と脚本家のジャック(エイドリアン・ブロディ)、そして売れない三流女優のアン・ダロウ(ナオミ・ワッツ)は、島で巨大な生き物と遭遇する。
シネマトーク:あの『十戒』を作ったデビッド・O・セルズニックが製作した第1作の『キング・コング』(1933)は生まれてなかったので見ていない。巨猿との競演には当代の美女を使ってくる。第1作のフェイ・レイも美しかったようだ。第2作(1976)は見た。オーデションでヒロイン役を獲ったジェシカ・ラングのデビュー作でもあった。長年アン・ダロウ役を印象付けられたが、その後演技開眼してアカデミー主演女優と助演女優賞をとった。今回は、わが大好き女優の ナオミ・ワッツだから堪らない。デビット・リンチの怪作『マルホランド・ドライブ』に出るや注目した。『リング』『リング2』と出て人気を不動のものに。『21グラム』でアカデミー賞は『モンスター』の怪演をしたシャリーズ・セロンに獲られたものの主演女優賞にノミネートされる押しも押されぬハリウッド売れっ子女優。ピノキオ似の鼻が愛嬌だ。ニコール・キッドマンと親友なのも嬉しい話。
とにかく理屈抜きで面白い。わくわくする。前半映画監督と三流女優のそれずれの髑髏島に渡るまでの過程は退屈だ。やっと前半1時間してコングが登場して俄然面白くなる。息も尽かせぬジャングルでの土着人と撮影隊の闘い。アンが捉えられて空中に生贄にされる場面。撮影隊を恐竜が襲うシーンは迫力十分。そして、コング と T-レックスの壮絶なバトルは圧巻だ。スティーブン・スピルバーグの『ジュラシック・パーク』に対抗?するかのように。CGと分かっていても十分手に汗握るのはその精緻な技術の証左か。見ながら思った。ジャクソンはこのシーンを撮りたかったのかと。かつてジョン・フォードが『駅馬車』でグランドキャニオンを舞台に馬が疾走し、インディアンが襲う場面を撮りたかったかと。スティーブン・スピルバーグが『インディー・ジョーンズ』でハリソン君が砂漠で森林をジープで駆けぬけるシーンをと。また、黒澤明が『用心棒』で三十郎がヤクザ相手に疾風の宿場町で立ち回りをするシーンをと……。
この手の映画にはロマンティックなシーンも用意される。コングがそのとき助けたアンを高い住処に連れて行き休ませる憎い演出がある。青い空を茜色に染めあげる夕焼けにすでに涙がこぼれるようだ。『タイタニック』のジャック(デカプリオ)とローズ(ケント・ウインスレッド)が船尾で手を広げて立つシーンの夕焼けにも涙が出そうになったほど美しい。ラストのエンパイアステート・ビルの朝焼けにはもう滂沱(ぼうだ)しそうだ。オリジナルも泣けるんだから、今回もとは覚悟していたが、よくできている。それはコングとアンの交流が丁寧に描かれているから、4機の飛行銃器の全身を打たれ込まれて涙を見せてビルから落ちて行く様は“可哀想”と滂沱しそうだ!
そして思い出すのはジャック・ドリスコルが自らの戯曲のなかに込めてみた「言葉はいらない」というセリフ。オリジナルではほぼ一方通行だったコングの気持ちに、このジャクソン版のアンは応えまくり。たとえ言葉が通じなくっても、ふたりの心は「孤独」という感情で共鳴しあう。それはまたジャクソンが、言葉をしゃべらないコングの気持ちを、彼の表情&仕草、そして瞳だけでわれわれ観客に見事に伝えてみせたことを意味しているのだ。
ハリウッドにおいて『キング・コング』は愛の映画であり、究極の“モンスター愛”に満ちた映画でもある。よくある怪獣映画(なんとかゴジラ)みたいに、ただ目的もなく町を破壊するような映画ではなくて、キング・コングがなにかするときには必ずきちんとした理由がついてくる。キング・コングは恐竜と戦って舌を噛みちぎったり、攻撃的だったけど、あれもすべてはアンを守るためだった。久しぶりに痛快な活劇をみて1年間のいい締めくりができた。それにしても2時間30分は疲れた。
■ 『SAYURI』 |
Date: 2005-12-15 (Thu) |
いつもお世話になります。初めてKOTANIのシネマトークを配信する方もおられます。
映画ファンの小谷洋一です。お邪魔いたします。
数年前から、ネット情報も織り交ぜ見た映画の感想文としてして「KOTANIのシネマ
トーク」と称して配信してきました。
70本も見た03年から今年は50本です。最近は韓国映画が多いです。
『四月の雪』の女優が主演の『私の頭の中の消しゴム』とかNHK韓国ドラマ『チャングムの
誓い』のイ・ヨンエの『親切なクムジュさん』くらいです。
今回、久しぶりに”筆”を取ってみたい映画に出会いました。『SAYURI』です。ではよろしく
お願いします。
チャン・ツィイーもコン・リーもミシェル・ヨーも美しく、演技も素晴らしいけど、何と言っても子役
時代の大後寿々花がこの作品を一級にしています。将来が楽しみです。
あとは、スティーブン・スピルバーグの『ミュンヘン』、ナオミ・ワッツの『キング・コング』が待たれます。
小谷洋一
【SAYURI】★★★★☆ 未体験のゲイシャ・ワールドは美の洪水。MVPを3人あげるとなるとコン・リー、渡辺謙、ミシェル・ヨーだ。とくにコン・リーは妖艶で前半の主役級
解説:1人の芸者の人生を描くとともに、豪華絢爛な美の世界を表現する。ハリウッドが描いた斬新な“日本の伝統美”の数々は一見の価値あり。『シカゴ』でアカデミー賞を受賞したロブ・マーシャルが監督を務めるだけに、斬新なカメラワークときらびやかな映像美に圧倒させられる。必見なのは、着物の着付けなどがハリウッド流にアレンジされている点だ。「日本人はそんな風に着ない」とつっこむ前に、その美しさに心を開けば、まるで“竜宮城”に迷い込んだかのような幻想的な世界を堪能できる。チャン・ツィイー、コン・リー、渡辺謙、ミシェル・ヨー、役所広司、桃井かおり、工藤夕貴の豪華なキャスティングは意味深いもの。
ストーリー: 幼いころ祗園の置屋に売られたさゆり(チャン・ツィイー)は、不思議な瞳をした美しい少女に成長し、その魅力を武器に一人前の芸者となるべく修行に励んでいた。
シネマトーク: チャン・ツィイー、渡辺謙、ミシェル・ヨー、役所広司、桃井かおり、工藤夕貴と豪華なアジアスターがハリウッド映画をつくることになるとは、考えられなかった。トム・クルーズの『ラスト・サムライ』に続き日本を舞台にしたハリウッド映画ができた。日本の芸者、文化を外国人の監督がどのように描くのか楽しみだった。まずまずの描かれ方かと。
・ 正直、日本女優が主役を演じることができず中国女優チャン・ツィイー、コン・リーが芸者を演じる映画は映画フアンでなければ、見ないところだ。しかし、さゆり役を捜すとなると。宮沢りえでは細くて目が大きすぎ、木村佳乃では存在感が乏しく、藤原紀香では色気がむんむんであわず、米倉涼子では可憐さがなく、小雪では清純さがなく暗く、仲間由紀恵ではあつくるしい。わたしなら松たか子か。
・ 運命に押し流される“悲劇の少女”の物語は、正直、序盤は辛気臭い。それが、少女(大後寿々花)が会長様(渡辺謙)と出会ってからは、生きる目的を見つけた彼女の人生と同じように輝きだす。たとえ、そこにドロドロとした女の闘いが渦巻いていても。チャン・ツィイー、和服が似合わない怒り肩なのが惜しい。
・ 原作は、アメリカ人が書いたとは思えないほどの精緻な花柳界の描写も特徴的だが、そんな原作に忠実に描くことで「西洋では“ゲイシャ”というものが誤解されがちで、その意味を正しく伝えるいい機会だと思った」というロブ・マーシャル監督は、「日本の文化に敬意を払うと同時に、その魅惑的な美しさや神秘性を中心に描けたと思う」と語り、映画の出来にも満足した様子だったとのこと。
・ 主役が中国人女優であろうと、髪型がポンパドール風であろうと、芸妓と舞妓の区別が曖昧であろうと、お座敷が花魁ショー風であろうと、扇の使い方が南京玉簾であろうと、そこはエンターテイメントだからと我慢して見ていたが、”右前の着物”だけは止めたい。
・ チャン・ツィイーもコン・リーもミシェル・ヨーも美しく、演技も素晴らしいけど、何と言っても子役時代のSAYURI(大後寿々花)がこの作品を一級のものにしている。
・ ストーリーもなかなかよかったが、映像や音楽が素晴らしい。ヨーヨー・マとイツァーク・パールマンという偉大な演奏者の奏でる切なく美しいメロディにのせて、画面を駆け抜ける少女の姿が圧巻だ。日本の題材ゆえに、日本人はその描き方を気にする向きもあるけれど、これほどの崇高なドラマと映像で語られるまさに逸品だ。
・ アメリカ人男性の小説が原作のハリウッド映画なんて、しょせんは芸者幻想なのだろうと。ところが、意外にも、これが心ときめかせる世界。芸者の普段着キモノが和服というより中国史劇なシルエットだったり、確かにいろいろ言い体ところはある。これは歴史ドラマじゃなくてファンタジー。ハリウッドがもはや確信犯的に描くのにいちいち目くじら立てるのは筋違い。良くも悪くも、結局はハリウッド映画である。
・ 台詞が前編英語だったが、見始めて見ると違和感が感じられず、むしろ演じている俳優の感情とか表現があらわに出ていてスクリーンに引き込まれる。
・ MVPを3人あげるとなるとコン・リー、渡辺謙、ミシェル・ヨーだ。とくにコン・リーは妖艶で前半の主役級だった。チャン・ツィイーは、チャーリーズ・セロン等とともに、米第83回ゴールデン・グローブ賞にノミネートされた。
記者会見:『SAYURI』の記者会見が、11月28日、東京・日比谷の帝国ホテルで開かれた。会見には監督のロブ・マーシャル、主演のチャン・ツィイー以下、渡辺謙、ミシェル・ヨー、役所広司、桃井かおり、工藤夕貴、大後寿々花が出席した。映画は、ひとりの芸者の数奇な運命と一途な愛を描いたドラマで、12月10日に日米ほか世界同時公開される注目作なだけあり、会場には総計700人の報道陣が詰め掛ける賑わいだった。
インタビュー: 上映後の舞台あいさつでは、中国の女優でありながら芸者役を熱演したチャン・ツィイーに大きな拍手が送られ、感極まった彼女は号泣。来場ゲストのひとりデーブ・スペクタ−は「この映画で、日本のゲイシャはすぐに性的な関係が結べるなどという外国の間違ったイメージを払拭して、素晴らしい日本の文化を世界に広める最高の作品になるはず」と語った。自身の恋愛観を聞かれたツィイーは「恋に落ちたらさゆりのように10年も待てない」と正直な回答。
Q:さゆりは、たたかれても、たたかれても這い上がる根性の持ち主。実際に演じてみて彼女のことをどう思いましたか? また、ご自分と似ている部分はありましたか?
A:そうですね、自分と似ている部分はあるかもしれません。さゆりはとても負けず嫌いで気が強い女性だと思います。どんなに苦しいことでも我慢できて、そして忍耐強いですよね。多分、彼女が育った環境から強い精神力が出来上がったのではないでしょうか。また、彼女の内面をもっとストレートに表現するために、どんな人物なのかを必死に考えました。
例えば、豆葉(お姉さん)の旦那さんがわたしを襲うシーンがあります。そこでさゆりは着物を脱がされてしまうのですが、女性としてはこんな恐ろしいことはありませんよね。大抵の女性はきっと泣きわめくと思います。ですが、子供のように泣きわめいたりする行為はさゆりには合わないと思いました。彼女だったら感情を抑えて耐えるのではないかと考え、そう演じるように務めたのです。おそらく、全身から震えが湧き上がって血も硬直するほど怖かったと思います……ですが、その怖さを彼女は内に秘めると思ったんです。実際はわたしも震えが止まらなくて、顔の筋肉さえも固まってしまい、体の中の流れも止まったかのようでした。つらくても怖くても敢えて涙を流さない、彼女は本当に強い女性ですよ。そのシーンを取り終えたあと、現場にいた女性スタッフが涙を流していました。彼女を演じる自分の演技が、周りに伝わったと思うとなんだかうれしかったですね。
《チャン・ツィイー》
11歳の時に北京舞踏大学付属中学に入学。その後、北京の中国中央演劇学院に進み演劇を専攻する。チャン・イーモウ監督の目にとまり、『初恋のきた道』のヒロインに大抜擢される。00年にはアン・リー監督の大ヒット作『グリーン・デスティニー』に出演。一躍アジアのトップ女優に躍り出る。この作品はアメリカでも大成功をおさめ、期待のアジアン・ビューティとしてハリウッドでも注目の存在となる。そしてそのまま、ジャッキー・チェン主演の『ラッシュアワー2』であっさりとハリウッド・デビューを果たす。その後は、『MUSA−武士−』『HERO』とアジアの超大作に出演。以後も、日本の木村拓哉出演でも話題の『2046』、『HERO』のチャン・イーモウ監督、金城武主演の歴史アクション『LOVERS』に出演するなど、いまアジアでもっとも世界的な人気を集める女優である。1979年2月9日中国/北京
《桃井かおり》『SAYURI』のオープンセットを見た時には、驚きを隠せなかったという。「ひとつの街をそのまま作ってしまうんだもの。日本の監督たちなら、さぞかしうらやましがるだろうなって思った。だってどこからでも撮れるわけだから。確かにその辺は違ったけど、スタッフのやり方自体は変わらなかった。日本のスタッフって優れてるんだけど、そのことは両方の現場を見て初めてわかったことなの。やはり日本の映画界って相当優れてるなって確認できて、それはすごくいい発見だったと思うし、海外でやるってことも無理なことじゃないし、手の届かない遠いものではなかったということもわかった。今回私たちが『SAYURI』に出演できたことによって、きっと今後いろんな人たちから声がかかるようになると思うわ」
「私は今、生活も向こうでしたいと思い、アパートももってるから、行ったり来たりしているの。なんか今回、ぱーっと目が覚めたところはあるわね。なんだ、外国にだって住めるんじゃないってね。海外の映画に出ることはそんな無理なことじゃないなって、ちょっと図に乗ってるんだけど今(笑)。でも本当にそう思えてきたのよ。英語もすごく新鮮で、日本語だったらいじくっちゃったりクセをつけたりするんだけど、英語だとあれで素直にやってるほうなのよ。それで英語の台詞もすごく楽しくなってきちゃって。最初は1本で十分って思っていたんだけど、もう少し出たいなと思えてきたの。できれば、今度は日本人じゃない役柄を演じたいわ!」
(平成17年12月15日)
■ 『四月の雪』と『シンデレラマン』 |
Date: 2005-09-18 (Sun) |
いつもお世話になります。9月は見たいのがないのと、
いろいろ忙しいこともありKOTANIのシネマトークが
ありませんでした。
今回話題の2作品を観ました。それぞれ”……”と
いう内容です。
ペ・ヨンジュの『四月の雪』とラッセル・クロウの『シンデレラマン』です。
堪能いたしました。よろしくお願いします。
【四月の雪】★★★★ 深く、静かに、揺れる男女の想い。この秋、心に残る作品か
解説: 〜男の帰りを待つ女。女の帰りを待つ男。ある日、互いの伴侶の事故の知らせが、ふたりを引き逢わせる。見知らぬ街、永遠のように長い時間、そして知らされる、信じていた者の悲しい嘘。絶望の淵に立たされたふたりはやがて、互いの傷を癒すかのように惹かれ合っていく。それが、決して積もることのない四月の雪のように、はかない恋だと知りながら〜
この秋、待望の話題作『四月の雪』。 韓国を代表する男優ペ・ヨンジュンと韓国映画の宝石と呼ばれる女優ソン・イェジン。『八月のクリスマス』『春の日は過ぎゆく』と日本人の心に響くラブストーリーの傑作を撮り続ける名匠ホ・ジノ監督によって、ふたりは、新たな愛の色をスクリーンに焼き付ける。様々な“ラブストーリー”で愛を表現してきたペ・ヨンジュンとソン・イェジンが、こらえ切れない男女の心の揺れを、静かに、そして深く描き出してゆく。
撮影は2月4日から開始され、6月18日にクランクアップ。それまでの5か月間、映画のために用意されたセットのような寂寥(せきりょう)感のある韓国東海岸の三陟(サムチョク)市のロケや、韓国の人気アーティストが出演する実際の野外コンサートでの撮影などが話題となった。
監督ホ・ジノ:ハン・ソッキュ&シム・ウナ主演の『八月のクリスマス』(1998)、ユ・ジテ&イ・ヨンエ主演の『春の日は過ぎゆく』(2001)と、伝説的な女優を起用し、繊細なトーンで男女の微妙な心の襞(ひだ)をスクリーンに刻み込んできた名匠ホ・ジノ監督。小津安二郎監督を敬愛する彼の、日常のさりげない風景から時間と空間を切り取るその感覚は、日本人の心をしっかりと捉える。『八月のクリスマス』では写真館の経営者、『春の日は過ぎゆく』では録音技師が主人公となり、<写真><音>という舞台を通して、監督の愛に関する特別な洞察力と独特な視線で、ラブストーリーの傑作を送り続けてきた。本作は、ペ・ヨンジュン演じる主人公が<光>を扱う照明技師であることから、監督の<男女に訪れる愛>への視線と共に、<映画>に対する視線の一貫性も感じ取ることができる。前2作で数々の映画賞に輝き、『八月のクリスマス』ではカンヌ映画祭の批評週間に出品され注目を浴びた彼の徹底した演出が、ペ・ヨンジュンとソン・イェジンの新たな魅力を引き出す。
ストーリー: ソウルのコンサート制作会社で照明のチーフ・ディレクターとして働くその男、インス(ペ・ヨンジュン)が、妻の交通事故の知らせを受け取ったのは、仕事の真っ最中のことだった。彼はこの時まで、何人かに一人は必ずみまわれるありきたりな不幸を背負った、妻を愛する平凡な男だった。雪原を貫く高速道路、そしてその先にある東海岸の小さな町、サムチョクに着く前までは。サムチョクの救急病院の手術室の前、清潔さをことさらに強調するかのように白く塗られた廊下で、無造作に置かれた木のベンチの肘掛に所在無く体を預けているその女、ソヨン(ソン・イェジン)は、深い悲しみの底にいた。自立することなく、親の薦めで夫と結ばれた彼女にとって、夫が交通事故で生死の淵にあることは絶望を意味した。しかし、彼女は知らなかった。絶望より深い苦しみのあることを。そしてふたりに残酷な現実がつきつけられる。それぞれの妻と夫は一台の車に乗っていた。口に出してしまうことは、それを認めることになってしまう。しかし、インスもソヨンも、もはや同じことを感じていた。デジカメ、携帯電話——2人の疑惑を裏付け、知りたくもない現実が突きつけられる。「死んでくれればよかったのに」。意識の戻らぬ妻に向かい、インスの唇からそんな言葉が思わず漏れ出す。疑惑が確信へとその姿を変え、生死をさまよう者たちへの思いが憎悪になる。しかし、ふたりは真実を確かめずにはいられない。インスとソヨンは互いの結婚相手のことを語り合う。そして、それぞれが結婚する前、大学時代からの知り合いであることを知る。今や確かめる術もないが、何時から欺かれていたのか? 悲しみは憎しみとなり、そして無力感だけが残った。
他の誰にも語ることのできない真実を、はからずも共有することになったインスとソヨン。ふたりは互いの支えとなっていることに気付く。それは自分たちがかつて愛した者たちと同じ過ちを犯すことを意味する。しかし、そんな逡巡(しゅんじゅん)も愛に渇いたふたりにはどうでも良いことだったかもしれない。傷の深さの分だけ、それを埋めるかのようにインスはソヨンの、そしてソヨンはインスの愛を求める。肉体が傷ついた者たちよりも、心を傷つけられたふたりこそが癒しを必要としていた。しかし、出口の見えない中、転機は唐突に訪れた。インスの妻が意識を取り戻し、ソヨンの夫はさらに状態を悪化させてゆく。目を奪う鮮やかな花弁の上に舞い降りる“四月の雪”。それは幻のように儚く消えてゆく。いつしか春を迎えようとしているサムチョクの街。ふたりの愛も雪のように消えてしまうのだろうか……。
シネマトーク: 4月なのに雪が舞い始める。大イベント舞台の照明演出を終えたインス(ペ・ヨンジュン)は、ソヨン(ソン・イェジン)に携帯を掛ける。一転、フロントグラスを通して積もった雪の道路。その路を静かに、車はあてもなく行く。柔らかく降り掛かるボタン雪を振り払うワイパーがゆっくり左右に動く……。運転手の男と助手席の女と交わされる会話。「どこへ行きますか?」(男)。「どこへ行きます?」(女)。一転、クレジットにエンディングソングが流れる。「……切ない二人は、これからも運命の関係を続けて〜」と。2時間20分のドラマが終わる。私は、このラストシーンがこの作品のすべてを象徴していると思う。1つは、“寡黙さ”。ホ・ジノ監督は、無駄なシーンを殺ぎ落とし、淡々とカメラを回すのみ。俳優の台詞も極度に抑えてこれまた寡黙。出演者の“表情”と“画面”だけで、観客に想像させる。それが程よい余韻を与える。前にも触れた山田洋次の『隠し剣鬼の爪』のラストシーンもこの作品のすべてを象徴している。女中の松たか子に旧家主の永瀬正敏が訪ねてきて言う。「おれと夫婦になってけれや」。「それは命令でごんすか?」」「……。んだ命令だべ」。「……分かりました。旦那様の命令とあればすかたなかんべ。嫁子になりましょ」。二人は蝦夷地に新たな人生に旅立つ。永瀬正敏の思いやりの心、松たか子の密かに主人を想う一途な情が、ひしひしと伝わってくるいいシーンであった。小津安二郎監督を両者は敬愛する。小津の撮りかたでもあるという。余計な描写が無い分、俳優たちの感情の機微が素晴らしい。ことにソン・イェジンの表情の演技がすばらしく、とても感情移入してしまう。映像に現わす主人公インスの心の切なさ・ソヨンの悲しさを、観客に問うホ・ジノ監督流の作品は、心の奥に切なさと「愛する事」の苦しさを“寡黙さ”で考えさせる。
2つは、“丁寧な映画つくり”。インスとソヨンが徐々に、心通わせる過程を丹念に、辛抱強く描いて行く。ふたりの“心象”を実になまなましく捉える。
b3つは、俳優ペ・ヨンジュンの新たな魅力をも観客に発見させた作品である。観る毎に深く心に残る予感をさせる久々の「大人の恋」。
歳後のおまけとして。ラブシーンのこと。9時間掛けて撮ったとのこと。最初に結ばれるところ。ソヨンがバスで、ストッキングを脱ぐシーン。“音”が入る。インスがソヨンのジーパンのポックを外す“音”が入る。べたべたしたラブシーンを見飽きた観客には、実にリアリティーである。
【シンデレラマン】★★★★ あなたは、みんなの希望だけど、私の大切な人
解説: 試合の相手に殴られて怪我を負うばかりでなく、もし大切なあなたを失ったら生きてはいけない。そんな愛する夫を失う恐怖より「人生を変えたい」という家族のための男の決断を応援しようと決心する妻メイの愛。この映画は、主人公ラッセル・クロウ演じる、実在の伝説のボクサー・ジェームズ・J・ブラドックの真実の物語。ボクシング映画というと今年度アカデミー賞をほぼ総なめにした「ミリオンダラー・ベイビー」が思い浮かぶ。
あの映画と比べてどちらが良いかなどと、くだらない批評をしてしまうと、なんだかネタバレになってしまいそうである。ストーリー: 1929年10月24日 ブラック・サースデー「暗黒の木曜日」、はニューヨーク株式市場が大暴落し、世界恐慌が始ります。第1次世界対戦終戦後アメリカ経済はきわめて好調だったにもかかわらず、この日、ニューヨーク工業株30種平均(ダウ平均)が底なしとも言える大幅な下落に転じ、アメリカ経済は未曾有の不況へと落ち込み、それが世界にも波及して世界大恐慌へと発展していったのです。この映画の中でもよくその名前が出てくる、1920年代の繁栄の守護神のように思われていたハーバート・フーヴァーが大統領に就任してから、わずか半年あまり後のことでした。株の値段が下がっただけで大恐慌になるわけでなく、それにつづいて、物が売れなくなり、仕事がなくなり、労働者が職を失い、職と食を求めてさまようホームレスがあらわれ、工場や会社が次々と閉鎖され、倒産するようになって行きます。あらゆる経済活動が落ち込んで、社会の秩序が混乱する状態になって、大恐慌となるのです。
シネマトーク: この映画の素晴らしさはラッセル・クロウはもとよりレニー・ゼルウィガーの演技力に加えて、物語のテンポとストーリー展開の見事さと、最後の最後まで手に汗握る素晴しいボクシングシーンの魅せ方にある。世界恐慌のさなかにあって、人々に永遠に語り継がれる「奇跡の一夜」から自分の家族の愛と生活を守るためひたすら戦う姿はいつのまにか家族の希望に留まらずアメリカの希望の光になっていた。1ラウンド持つかどうかと噂されたヘビー級タイトルマッチのマックス・ベア戦で、叩かれても叩かれても決してあきらめないその姿に観客は全員ブラドックの味方に。
ラッセル・クロウの父親像は観ているものにとって、ラッセル・クロウではなく、完全にブラドックである。そんな役と自分とをシンクロさせて行く彼の演技のうまさに最初から最後まで期待と信頼の目を向ける子供達のような気持ちになりきって観てしまうから不思議だ。危険なボクシングの試合によって愛する夫を失うことに怯えるメイの気持ちに共感するよりも、彼を誇りに思い彼に全幅の信頼を寄せる。
アカデミー賞を獲った『グラディエーター』で甲冑に身を包んだ逞しい剣闘士とは明かに別人かと思う。頬がこけ、痩せたボクサーに見事変身。随分、ボクシングのトレーニングを積んだと思われる。ラッセル・クロウのボクサーは1935年の貧しい時代を投影する。「カタリーナ」が吹き抜けたニューオルリンズが生んだ貧しいボクサーだ。家族を脊負い、子供の“ミルク代”のためにグローブをはめる。これがトム・クルーズだとただの英雄ボクサーになってしまう。
同じくロバート・デ・ニ−ロは、『レイジング・ブル』で13キロ肥えてボクサーに扮し、アカデミー賞を獲った。ハリウッドはボクシングや野球人生が好きだ。
ジェームズ・J・ブラドックその生涯:1906年12月6日、NY生まれ。ニュージャージーのアマチュアチャンピオンとして名をはせ、19歳でプロ・デビュー。33戦22敗、負けの山を築いてジョー・ルイスら新人の踏み台にされていった。だが、右手3回、肋骨2回、鎖骨を1回骨折し、顔を22針縫っても、家族のために闘うことをやめなかった彼がライセンスを奪われ強引に引退をさせられると、仕事もなく、生活保護を受け、食糧配給の列に並んでいた。しかしその失業者は、彼を見捨てなかったマネージャーのジョー・グールドによって、誰もが想像しなかった一夜のみの試合に奇跡を起こした。一度は燃え尽き灰になっても、あきらめなかった男の復活を見て、1930年代を代表する著名な作家で“アメリカ第一のジャーナリスト”といわれたデイモン・ラニアンは彼を「シンデレラマン」と呼んだ。おとぎ話は現実となり、シンデレラマンと魔法使いジョーの物語は伝説となり、多くの伝記の主人公となった。そんな彼が、対マックス・ベア戦のファイトマネーで買ったのは“家”だった。地元ノース・バーゲンに購入したその家で、彼とメイは子供たちの成長を見守り1974年11月29日、その家で睡眠中に静かに息を引き取った。享年67歳。終生の友ジョーの死後5年のことだった。2001年、世界ボクシング協会の殿堂入りを果たし、その栄誉を讃えられた。
■ ご声援ありがとうございました |
Date: 2005-09-29 (Thu) |
各位
本日、阪神タイガースが優勝いたしました。ここに感謝申しあげます。
ありがとうございました。
喜びついでに”『優勝によせて』を記しました。ご笑読ください。
小谷洋一
『阪神優勝によせて…』
ジャイアンツ五番阿部慎之介のドライブのかかった痛烈なレフト
ライナーを拝むように金本知憲が数歩前進して右手グラーブで
掴んだ。阪神タイガースが18年を要することなく2年で再び
“リーグ優勝”を成し遂げた瞬間である。
矢野輝弘捕手が、マウンドに走り寄って久保田智弘投手と抱
き合う場面もない。試合を見守った控え選手がマウンドにゆっく
り駆け寄る。今岡 誠が、赤星憲広が、下柳 剛が笑顔で握手
しあう。その光景も、実に“クール”だ。
それを象徴するかのように伝統のタイガースの監督、岡田彰布は、
ベンチでスタッフと “喜び”と“労い”の握手を充分
にしたあと、選手が「早く来い」と待ちうける晴れの舞台にゆっく
りと、そうゆっくりと、この一年の闘いを噛みしめながら歩む。2年前、
星野仙一監督が“破顔一笑”しながら同じ舞台に駆け寄ったのと、
随分違う。そして、岡田は、“五度”宙に舞った。
18年振りに宿願を果した歓喜はない。そこに今年の阪神の“強さ”
を実感する。5月から6月にかけての歴史的な交流戦で中日ドラゴ
ンスを抜くと、1度も首位を譲ることなくゴールテープを切った。
優勝監督インタビューで岡田は言う。「キャンプから優勝を掛け声に
して一年やってきた。素晴らしい選手に恵まれた」と。
2年前のヒーローは、監督星野仙一が“主役”であった。
今年は、明らかに選手が主役である。強いてあげれば野手
であれば、ここ一番の頼り甲斐ある四番の“金本知憲”であ
り、藤本富美男以来の140打点の“今岡 誠”であり、相
手投手を震えあがらせた韋駄天“赤星憲広”。
投手であれば、NO1の球威を持つJFKの筆頭“藤川球児”であ
り、のらりくらりの軟投“下柳 剛”である。
しかし“つなぎ野球”に徹した若虎“鳥谷”勝負強い“矢野”
や、黙々と試合を壊すことなく中継ぎをしっかり果した若手
三羽烏“橋本”“江原”“桟原”たち全員の“勝利”である。
ふがいないエース“井川 慶”や故障あがりの“浜中おさむ”の“活躍”が
無くとも余りある“実力”を見せつけた。唯一、危なかったのは9月7日の
中日戦。若き中日の新人投手“中田”に敗れて0.5ゲーム差に負い込
まれた翌日。2点差を9回同点までされて敗色濃厚な延長戦で、守りで
途中出場の“中村 豊”の一発が阪神を救った。あのゲームで
“優勝”を私は“確信”した。
そして、興奮することなく、優勝を味わうことができた。充分に強い“タイガー
ス”を、この一年見せつけられてきたからだ。
≪平成17年9月29日 PM11:19≫
■ KOTANIのシネマトーク報告 |
Date: 2005-07-09 (Sat) |
㈰【リチャード・ニクソン暗殺を企てた男】★★★
解説: アメリカが激動の70年代を歩んでいる中、実際に起きた大統領暗殺未遂事件を映画化した衝撃の問題作。監督は本作でデビューしたニルス・ミュラー。オスカー俳優のショーン・ペンが、正直すぎたゆえに社会に順応できず自ら破滅を招いた男を、圧倒的な存在感と演技力で演じ切った。作品に惚れ込んで主演を承諾したというだけあり、悲哀に満ちた熱演ぶりは鬼気迫るものがあり、まさにショーン・ペンのオンステージ。
ストーリー:転職してセールスマンになったサム・ビック(ショーン・ペン)は、慣れない職場に居心地の悪さと不満を感じつつ、別居中の妻マリー(ナオミ・ワッツ)との復縁を願う日々を送っていた。
シネマトーク: 9・11テロ事件から遡ること約30年前、民間機をハイジャックしてホワイトハウスに墜落させ、大統領暗殺を企てた男がいた。仕事も家庭も失い、正しい者が報われない間違った社会の根源を国家に見出した男が、それを打倒して自らの存在を世に示そうとする物語が、「リチャード・ニクソン暗殺を企てた男」のポイントだ。まさにショーン・ペンの映画である。作品的には、9・11テロ事件を想起させるもののそれほどの内容ではない。正直すぎたゆえに社会に順応できず自ら破滅を招いた男を、圧倒的な存在感と演技力で演じ切った。作品に惚れ込んで主演を承諾したというだけあり、悲哀に満ちた熱演ぶりは鬼気迫るものがあり、まさにショーン・ペンのオンステー。かつての緒形 拳のように冷徹な殺人者、ひとのいいおまわりさん、シャブも女もやる悪徳刑事と、どんな役でもこなしてしまう。6歳の知能度しかない父親役の『アイ・アム・サム』(01)、娘を殺したと幼馴染を疑って殺める更正ヤクザ役の『ミスティック・リバー』(03)、ひき逃げをした相手の未亡人に惹かれる無職の男役の『21グラム』(04)、アフリカ要人暗殺を企てる謎の通訳役(インタープリタ−)を扮するNOI女優ニコール・キッドマン相手に辣腕のFBI役のサスペンス映画『インタープリタ−』(05)と多彩。
本作が初監督となるニルス・ミュラーは、実在の事件からヒントを得て、この物語を書き上げたが、資金やスタッフ集めに苦心したという。しかし、そこへ大学時代の同級生であるアレクサンダー・ペインを筆頭に、アルフォンソ・キュアロン、レオナルド・ディカプリオら高名な映画人が製作に加わり、企画が進んでいった。主演は、昨年のアカデミー賞を受賞したショーン・ペンに決まった。「ペインを経由して、ショーン・ペンが脚本を読み、出演してくれることになったんだ」
さらに監督は続ける。「キュアロンは、いろいろと意見を出してくれた。脚本にも細かく付箋を貼ってアドバイスしてくれたし、カンヌやトロントの映画祭にも来てくれた。それだけ彼はこの映画を気に入ってくれたんだ。ディカプリオは、もし資金が足りない場合は、彼の製作会社から出してくれると約束してくれた。作品を観たときは『ショーン・ペンはまたすごい演技をしたね』と言っていたよ」と。
ディカプリオも舌を巻いたショーン・ペンの演技力が、サムという男の哀しみを多いに深め、映画にリアリティを与えているのは瞭然だ。「多くの脚本家が、ショーン・ペンが主演してくれたらいいなと思いながら書いているだろう。僕もそのひとりだが、実現するとは思いもしなかった。だから、彼の主演が決まったときはひたすら嬉しかったよ」とのこと。
㈪【バットマン・ビギンズ】★★★★ ハリウッド作品と一味違ったバットマン。必見です。
解説:クリスチャン・ベールを主演に迎え、バットマン誕生の伝説を描くエンターテインメント超大作。監督は『インソムニア』のクリストファー・ノーラン。リーアム・ニーソン、モーガン・フリーマン、マイケル・ケイン、ゲイリー・オールドマンなどの演技派に加え、日本の渡辺謙も出演している。ヒロインを演じるのは、ケイティ・ホームズ。人間ドラマにスポットをあてた構成は既存の『バットマン』シリーズとは一線を画す。
ストーリー: 両親を殺害されたブルース・ウェイン(クリスチャン・ベール)は、世の中に幻滅し、不当な闘いを終わらせ、弱者を餌食にする悪党を倒すことを心に誓う。
シネマトーク: 89年から97年まで、合計4作が製作された「バットマン」シリーズが、今回、装いも新たにバットマン誕生までの経緯を描いた『バットマン・ビギンズ』として甦った。英国の監督・俳優(クリストファー・ノーラン、クリスチャン・ベール、リーアム・ニーソン)で作りあげた品のよいドラマ。監督クリストファー・ノーランの飽きささない、スリリングな演出は、最後までリズムを崩さない。「なぜバッドマンになったのか」という至極知りたかったことを描く。主人公ブルース・ウェインの心情の変遷にグッと肉薄し、それに寄り添って描いていく。何より心をくすぐるのは、両親の死や幼少体験のトラウマに悩むブルースと、決して彼を裏切らない老執事(マイケル・ケイン)の関係だ。常にユーモアを忘れずに飄々とブルースのピンチを救う、英国紳士らしいユーモアな対応がおしゃれ。『ラスト・サムライ』でハリウッドデビューを飾った注目の渡辺謙も、出番は少ないものの怪しげな悪役で存在感を示す。決して、単純なスーパーマン物語に終わってなく、楽しいヒーロー誕生物語に仕上げているのがなんとも嬉しい。
バットマンたるブルース・ウェイン役のクリスチャン・ベールは新たにバットマンというキャラクターを創り上げたことについて「前4作は、あまり参考にはならなかった。今回の役を作り上げる作業はすべてグラフィック・ノベルを元にしたんだ」と、今回のバットマンが前3人のキャラクターとは違うことを強調。スティーブン・スピルバーグの初期の作品『太陽の帝国』(87)で大戦下の上海で両親とはぐれて、ヤクザ(あの冷徹なジョン・マルコビッチ)に育てられる孤独と貧困のなかで逞しく成長して行く少年時代を演じた、あの天才子役だったのを覚えている人は少ないだろう。
また、ティム・バートンやジョエル・シュマッカーとは違う「バットマン」の世界を作り上げたクリストファー・ノーラン監督は、「バットマンは何も超能力を持ってない普通の人間。何よりもそこに惹かれた。もし彼にスーパーパワーがあるとするなら、それは彼の財力だ。この映画では、財力も上手く使えば世の中にためになるということも描いているんだよ」と作品について語った。トム・クルーズの恋人として一躍世界の注目を集めた、ブルースの幼なじみのレイチェルにふんしたケイティ・ホームズ。
㈫【宇宙戦争】★★★★ 娯楽映画の王様たるスピルバーグの面目躍如。一級の娯楽作。必見!
解説: スティーブン・スピルバーグ&トム・クルーズが、H・G・ウェルズの名作小説を映画化したSFスペクタクル。地球侵略を狙う異星人と、愛する者を守ろうとする人類の闘いを活写。
ストーリー: 米国東部。バツイチの労働者レイは、離れて暮らす息子ロビーと娘レイチェルとの面会日に奇妙な現象に遭遇。やがてそれが異星人の襲来だと知った彼は、子供たちを連れ、安全な場所へ逃げようとする。
シネマトーク: トム・クルーズ、ダコタ・ファニング、ジャスティン・チャットウィン、ティム・ロビンスと豪華な俳優にタップリ制作費を賭けたと思われる異星人の襲来のシーンを提供してくれる。SF映画もスティーブン・スピルバーグにかかるとこのように一級の娯楽作に仕上げる力量に感心。さらに天才子役ダコタ・ファニングの心憎い演技がまたも映画の恐怖の臨場感を出す。上手過ぎるのだ。『ハイド・アンド・シーク』でもロバート・デ・ニ−ロを食うほど拒絶症の少女を熱演。『マイ・ボディーガード』でもデンゼル・ワシントンと渡り合ったのは記憶に新しい。今回も父親役でトム・クルーズは、随分娘役の彼女に助けられた?と思う。彼女の表情の一つ一つで恐怖が増幅される。12歳の少女が、映画全体を締めるのだから“不思議”である。
娯楽映画の王様たるスティーブン・スピルバーグの面目躍如といった感ありだ。というのは、
初期のカーアクションの『激突』、鮫が襲う『ジョーズ』のように、「これでもか。これでもか」と、どんどん恐怖がエスカレートする演出は見ていて小気味言い。ちょっとやりすぎじゃないという面もあるが。道路が突如盛りあがって異星人が出るなどの大掛かりなSFシーンも贅沢に見せてくれるが、ティム・ロビンスが閉じこもる廃墟に異星人の像のような“鼻”が侵入して、親子を嗅ぎまわるといったスリリングなシーンも『ジュラシック・パーク』で小恐竜が襲って行くのと同パターンだが、“ハラハラ、ドキドキ”させるのはさすがである。ティム・ロビンスの妖しげな役どころも用意していて楽しい。
㈬【ラヴェンダーの咲く庭で】★★★★ 美青年に心を奪われた初老女性の淡い恋をつづる名作
解説: 英国の美しい海辺の町を舞台に、美青年に心を奪われた初老女性の淡い恋をつづった、心温まるラブ・ストーリー。主演はアカデミー賞受賞歴のある2大名女優、ジュディ・デンチ&マギー・スミス。
ストーリー: 1936年、英国。ある日、浜辺に漂着した異国の美青年と出会った、初老のアーシュラ(ジュディ・デンチ)とジャネット(マギー・スミス)姉妹。アーシュラはその若きバイオリニスト(チャールズ・ダンス)に恋するようになり、平穏な生活は少しずつ変化していく。
シネマトーク:渋谷の「ル・シネマ」は、1時間前に予約券を入手しないと見られない。1度目は、2時間前に劇場に行くも、満席だった。95%は中年女性、男性は夫人に付き合う初老の男性ということで完璧に女性映画。隣の女性はラストシーンでは涙ぐんでいた。エリザベス女王も涙したとのこと。初老の女性の乙女心を完全にくすぐる映画。
さて、前置きが長くなったが、なんといっても2大名女優ジュディ・デンチとマギー・スミスの競演が見物。とりわけ助けた青年に乙女のような純真な淡い恋心を寄せるジュディ・デンチの演技が見事だ。
隣の美人画家が青年に声を掛けるのに嫉妬したり、夜中に彼のベッドに行き、髪を撫でようとするシーンや浜辺で青年がふと母を思いジュディ・デンチの膝に顔を置いたときに見せる恥じらいの表情と、数えれば枚挙に暇がないほどの“豊かな感受性”を表現してみせる。
やがて、青年は高名なバイオリニストになってロンドンで晴れの舞台で拍手を得る。掛けつけた姉妹は、突然の訪問に驚く青年との再会を楽しみしていたが、公爵などに挽き回される彼の姿を見て悟る。アーシュラは“もう、終わったのだ”と早々に披露パーティーをあとにする。もとの二人の生活にもどるのだ。海は、何事もなかったのように、今日も静かに浜に小波を寄せる。
と、まあこんな調子である。 “果せぬ夢”を多少、体験している女性ならば、なにかを思うのであろうか。バイオリンの音色が切ない。終了後、世界的な音楽家ナイジェル・ヘス作曲したこのCDを求める人が多い。
■ ムービートーク |
Date: 2004-12-16 (Thu) |
紹介による会員によるコンテンツ紹介の場としてKotaniの
ムービートークを設置しました。